ちょうど3年前に閉じてしまった自分のホームページに『常套句になった名前たち』という名前のコーナーがありました。
例えば「知らぬ顔の半兵衛」のような、人名に擬したり実名を織り込んだりした慣用句を取り上げて、その由来や用法などについてあれこれ 23回も連載しました。
実は連載するには少し内容が薄く、毎回の構成には四苦八苦していたのですが、とは言え、ああいう収集を全部消してしまったのももったいない気がします。
それで、今回は往年の名コーナー(と自画自賛w)から、各回で取り上げた名前だけを列挙しておこうかと思います。
そういう言葉って、探してみると結構少なくないことに驚いていただけるのではないかと思います(以下、連載順です)。
【名無しの権兵衛】
名前の分からない人をそう呼ぶ。そのバリエーションが何野誰兵衛、英語版が John Doe, Jane Doe。
【John Doe, Jane Doe】
英国の訴訟において、氏名不明の当事者に仮につける名前。
【何野誰兵衛】
ダレと濁らずに、ナンノタレベエと発音する。
【Mr. What's-his-name, Ms. What's-her-name】
「えっと、誰だっけ、ほら、あの、ナントカさん」という意味で使う英語。
【平気の平左衛門】
故事成語ではなくただの語呂合わせみたい。その現代版は「余裕のヨッちゃん」ではなかろうか?
【遅かりし由良之助】
歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』の大星由良之助(大石内蔵助に擬した主人公)。河竹黙阿弥の『三人吉三廓初買』の中にも「そいつぁとんだ由良之助だ」の台詞あり。
【弁慶の泣き所、弁慶の立ち往生】
これは故事成語の類。
【助平】
由来は不明。でも、「助兵」でも「輔兵衛」でもなく、必ずこの字が使われるところを見ると、モデルがいたのではないか? ちなみに「エッチ」は HENTAI の頭文字。
【出歯亀】
昔はスケベの意味でよく使われた表現。覗きの常習犯だった出っ歯の池田亀太郎。
【石部金吉】
頭の固い人。このネーミングは本当に巧いと思う。金太郎や金三では「堅い」感じが出ない。
【田吾作、抜け作】
これらも何となく「作」がフィットするのが不思議。
【骨皮筋右衛門(骨川筋右衛門)】
痩せの3大要素とも言える骨と皮と筋の3つをコンパクトに織り込んだ見事な造語。
【アッと驚く為五郎】
『ゲバゲバ90分』でのハナ肇のナンセンス・ギャグ。なんて言っても古すぎて分からんかw 1969~70年放送の番組ですからね。あの浪曲みたいな独特の節回しをよく真似した。
【土左衛門】
江戸時代の力士・成瀬川土左衛門。太った姿が、水ぶくれして浮き上がった水死体に似ていたとか。
【元の木阿弥】
大和郡山の城主・筒井順昭の影武者に用いられ、一気に贅沢三昧を覚えた木阿弥老人が、3年後に順昭の息子が成長したため城外に放り出された。モの頭韻を踏んでいるところがミソ。歌舞伎作家の河竹黙阿弥とは字が違い、関係ない。
【困った、困った、こまどり姉妹】
【しまった、しまった、島倉千代子】
よしもと新喜劇の島木譲二のギャグ。そこから派生して、「もう、ほんとに失礼島倉千代子」など「しまくる」を「島倉」に掛けた表現や、「昨夜はカラオケで歌いまくら千代子」などのバリエーションもある。
【大したもんた&ブラザース】
「ものだ」を『ダンシング・オールナイト』のもんた&ブラザースに掛けた表現。これを使う人はもう老人の域。
【知らぬ顔の半兵衛】
齋藤龍興の軍師・竹中半兵衛。織田信長が送り込んだ前田犬千代をスパイと知りながら素知らぬ顔でつきあい、逆に犬千代から織田方の情報を仕入れて齋藤家を勝利に導いた。現代の私たちはこういう史実を踏まえずに、もう少し気軽に使っている。
【助六寿司】
歌舞伎『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』の主人公・花川戸助六(その正体は曽我五郎)が吉原・三浦屋の太夫・揚巻(あげまき)に惚れていたところから、揚げと巻きでいなり寿司と巻きずしのセット。
【合点承知之介、冗談よし子さん、夢見る夢子ちゃん】
何故こういう組合せになるのか分からないが、不思議に安定的に決まってくる。
【王・金田・広岡・吉田】
往年の大物プロ野球選手4人の名前を連ねて「おう! 金だ。拾おうか? よした」という文章にしたジョーク。
【長池徳二さん】
元阪急ブレーブスの強打者。床などに落ちている長い毛の総称──と言っても、これ使ってるのは僕と妻だけです(笑)
【原辰徳!】
元巨人軍の4番打者、現監督。腹が立った時に言う。
【プー太郎】
無職。プーは poor から来ているという説もある。
【八百長】
相撲茶屋を経営していた八百屋の長兵衛さんが年寄・伊勢ノ海と囲碁をする際に手加減してやった。
【サンドイッチ】
博打好きのサンドイッチ伯爵が飯食う時間も惜しんで、トランプしながら食べた。
【男爵イモ】
川田龍吉男爵という人が栽培したからそういう名前になったのだそうだ。これは意外に知らない。
【おいそが氏】
「お忙しい」と「蘇我氏」を掛けたもの。
【うちの宿六】
「夫」の謙譲語(なのかなw) 「宿のろくでなし」が語源と言われる。
【呑み助、飲兵衛(のんべえ)】
短いとはいえ、これも立派な名前常套句。
【よっこいしょういち】
腰を降ろす時などに言う。戦後28年間グアム島に隠れていた残留日本兵・横井庄一さんと「よっこいしょ」という掛け声を掛けたもの。横井さんのニュースをリアルタイムで見た人が今どれくらいいるのか知りませんがw(1972年でした)
どうです? 結構あるもんでしょう。調べてみると単なる語呂合わせだと思っていたものが実は込み入った故事成語であったりするので驚きます。