心を操る心理テクニックの中には、「間欠強化」を利用するものがあります。
「間欠強化」というのは、「何かをしたとき、報酬がもらえるときともらえないときがある」という状況です。
普通なら、仕事をすればお給料がもらえます。
これは「連続強化」と言って「何かをすれば必ず報酬がもらえる」状況です。
普通に考えれば、「連続強化」の方が、人を動かせるような気がしますよね。
必ず報酬がもらえからこそ、安心して働けるので。
反対に、仕事をしたのに給料がもらえないときがあるという状況では、安心して働くことができません。
しかし、人間の心理と言うのは面白いもので、報酬がもらえるかもらえないか分からない状況の方がハマりやすいのです!
必ず報酬をもらえるというのは、確かに安心できるけどワンパターンで面白くありません。
一方、報酬のパターンが不規則だと、もらえない状態に対して「しょうがない」と思う反面、もらったときの喜びがウンと増します。
なので、次は「もらえるかな?」という期待が生まれ、飽きずに続けられるのです。
アメリカの心理学者のバラス・フレデリック・スキナーは、マウスの実験でこれを証明しています。
その実験ではAとBの箱を用意し、それぞれにマウスを入れます。
そしてAの箱ではレバーを押せば必ずエサが出てくる装置を設置し、Bにはランダムにしかエサが出ない装置を設置します。
Aの箱のマウスはレバーを押せばエサが出てくることを学習しているので、エサが出てこなくなるとすぐレバーに興味を示さなくなりました。
一方、Bの箱のマウスはエサが出ないこともあると知っているので、Aのマウスよりも長時間レバーを押し続けたのです。
このことから、毎回報酬がもらえる場合よりも、もらえるときともらえないときがある場合の方が、ハマリやすいと分かったのです。
さらに、報酬の量も一定だと飽きられます。
報酬の量も、たくさんもらえるときがあったり、全くもらえないときがあったりする方が、ゲーム感覚で楽しめます。
ギャンブルにのめり込んでしまうのは、こういった要素があるからなんですね!
恋愛もまた、相手がいつも同じ様なことばかり言っていたらつまらないですよね。
そっけない態度のときもあれば、いつも以上に心が通じ合うときがある。
そうした関係の方がきっと長続きするでしょう。
さて、中国の巨大テック企業アリババが行なっている信用スコア「芝麻信用」では、具体的に何を基準としてスコアが上がるのか明確になっていません。
信用スコアとは、年収や学歴、交友関係、借金返済などを信用度として数値化するシステムで、スコアが高いほどグレードの高いサービスが受けられます。
逆に低いと、受けられるサービスが減り不便な思いをするといった仕組みです。
スコアを伸ばすためには、良い行いをしなければならないのですが、具体的にどんな行動がスコアアップに結び付くのかは分かっていません。(目安のような例はありますが)
逆に、どんな行いが減点の対象かも分かりません。
なぜ、基準が可視化されていないかと言うと、可視化されるとみんなが同じ行動ばかりとってしまうからでしょう。
例えば「募金よりボランティア活動の方がスコアが伸びる」としたら、みんな募金額が減ってボランティアに殺到するかもしれません。
減点に関しても「信号無視よりスピード違反が減点される」と分かれば、スピード違反には気を付けるけど「信号無視ならいいや」と思ってしまうかもしれません。
ただ、僕は加点や減点の基準を明らかにしてないのはそういった一般論的な考えだけじゃないと思っています。
陰謀論になりますが、そこには「間欠強化」を作り出すことで人をコントロールしていこうという狙いがあるのではないかと邪推してます。
スコアの基準が分からないという状態は、報酬がもらえるかもらえないか分からない状態に非常に似ていて、「間欠強化」の状態だと言えます。
もし、「よく分からないのに最近点数が減ってる」となると、人はその原因を求めます。
なので「もしかしてこういった行為がダメだったのかな?」「いつもと違うことをしてみたらどうかな?」と勘ぐって、芝麻信用の思惑を探ってしまいます。
そしていつも以上に「イイコト」をしよう、となるのです。
つまり、これは忖度ですね!
自ら芝麻信用が求める行為を推測して実行するような行為は、自分から隷属するようなものです。
支配者にとっての恐怖は、民衆の蜂起です。
しかし、自ら首輪をはめに行った人は、歯向かうことができません。
なぜなら、自分も支配システムに協力した、共犯者だからです。
人間は自らの行いを否定することに対して、かなり抵抗感を抱いてしまうもの。
だからこそ、「間欠強化」を利用した信用スコアシステムが推進されているのかもしれません。
しかし、今のところ、中国ではそこまで信用スコアに振り回されてはいないようです。
大半の人は、不便を感じない点数(600点以上)で、さほど気に留めていない様子です。
気にしているのは、融資を受けたい人くらいだと言われているので、僕の考え過ぎなのかもしれません。
ただ、手綱は握られています。
彼らが、スコアの基準を徐々に絞れば、人々は少しずつ顔色をうかがうようになるでしょう。
一気に絞れば気付かれますがじわりじわりとやれば気付かれないでしょう。
ランダムでエサがもらえるマウスは、エサがもらえなくなってもレバーを押し続けます。
同じように、多少スコアが減っても、おかしいなとは思わず、スコアを使い続けるでしょう。
そして気づいたころには、みんなよりもスコアが足りず、慌てて忖度するようになるのかもしれませんね。
また、信用スコアを通してで収集した日々の情報は、アリババにストックされています。
アリババを含め、中国の大企業全般には、中国共産党の党委員会が存在します。
中国の法律である公司法では「会社は党組織の活動に必要なものを提供するべきである」という条文があり、また2017年には「国家情報法」という法律が施行されています。
これは「民間企業も個人も政府が行う情報活動に協力しなければならない」というもの。
中国人はみんなこれを知っています。
もう、それだけで忖度させる土壌は整ってるわけですね。
中国には「被喝茶(お茶を飲まされる)」と言うネットスラングがあります。
これは、逮捕はされないが警察に呼び出されて、過激な発言をしないよう釘を刺される、といった意味です。
ある日突然警察が来て「こう言うこと書いてるでしょ?」と言われたら恐怖ですよね。
それが実際に起こっているわけです。
信用スコアのようなソフトな統制から、こういったレベルの統制まで行われれば、共産党に忖度しなければならないと実感するでしょう。
他方、ウイグルやチベットでは虐殺と呼ばれるほどの支配があります。
様々なレベルでの支配を行うことで、市民へのプレッシャーを強めているのです。
信用スコアだけで人々をコントロールすることは行われていないけど、これは支配システムの一部として機能しています。。
他にも監視カメラや電子マネーも支配システムの一部で、そこに誘拐や虐殺などのアナログな支配システムがリンクして、共産党の独裁がより強固なものになっているんですね。
参考
本当にわかる心理学(植木理恵)
幸福な監視国家・中国(梶谷懐・高口健太)