あなたの政治的な立場は、保守ですか? リベラルですか?
分からない人は、選挙演説に行ってみるといいかもしれません。
演説へ行って何をするのかというと、話に耳を傾けるのではなく、鼻を利かせてください。
「演説に行ったのに、匂いをかぐの?」
と、思われるでしょうが、ここで重要なのは耳よりも鼻。匂いです!
例えは自民党議員の演説に行くとします。
そこにいる人たちの多くは、自民党を支持しています。
その人たちの匂いをかいで、嫌な感じがしたら、あなたは自民党を支持すべきではありません。
逆に、いい感じだと嗅ぎ取ったら自民党を支持した方がいいでしょう。
「え? 匂いで政治家を決めちゃっていいの?」
と、思うでしょうが、実はみんな匂いで政治的な立場を決めている可能性が高いんです!
(「演説に行ったって匂いなんて分からないだろう」と思った方は、最後の「補足」をご覧ください)
人には、政治的な思想(イデオロギー)を嗅ぎ分ける能力がある。
米国ロードアイランド州、ブラウン大学のローズ・マクダーモット博士らは、匂いと政治イデオロギーの関係を研究していました。
研究チームは、北米から集めた146人の被験者(18~40歳)に対し、政治的思想を評価していきました。
評価の末「極端にリベラル(10人)/極端に保守(11人)」と判定された21人(男性10人、女性11人)がターゲットに選ばれます。
ターゲットには、無香料の石鹸・シャンプーで全身を洗ってもらい、脇の下に24時間パットを当ててもらいました。
その間、飲酒、喫煙、香水など匂いがつくものは禁止されています。
こうして採取された、汗の匂いが染みついた脇の下のパットはランダムに瓶の中に入れられました。
そして、その匂いをターゲット以外の被験者である125人に嗅いでもらい、好き嫌いの判断をしてもらいます。
すると、被験者の多くは異性の匂いに好意を示したのですが、それと同様に自分のイデオロギーに近い匂いに好意を示したのです。
つまり、保守傾向が強い人は、極端に保守だとされた人のパットの匂いに好意を感じ、リベラルな人は極端にリベラルだとされた人の匂いを好んだわけですね。
中には、瓶の匂いを嗅ぐなり「この瓶を持ち帰りたい」と申し出る女性まで現れました。その匂いがよっぽど気に入ったのです。
その瓶の匂いは、男性の物だったのですが、やはり彼女と全く同じイデオロギーの持ち主でした。
しかし、この瓶を他の被験者に渡すと、「ムカつく匂いだ」と言われ、交換を要求されました。その人物は匂いの男性とは異なるイデオロギーの人でした。
同じ匂いでも、保守かリベラルかで、その反応は真逆のものになるんですね。
この研究から分かるように、人にはイデオロギーを嗅ぎ分ける能力があったのです。
マクダーモット博士によると、「ニオイには長期的な政治的イデオロギーの親和性を伝える重要な情報が含まれており、これによって無意識に惹き寄せられる」そうです。
つまり、イデオロギーというのは「政策の違い」ではなく、無意識的な直感で判断しているだけだったんですね。
自分が保守なら保守の匂いに惹かれて保守的な思想に染まっていく。
リベラルなら、リベラルな匂いに惹かれてリベラル的な思想に染まっていく。
政策に関する内容なんかどうでもよかったわけです。
もし、保守なのにリベラルの団体に入ってしまったら、リベラル臭にやられてただ気持ち悪くなるだけけです。
今まで僕たちは、イデオロギーは自分の頭で考えて自ら選んでいくものだと思っていました。
なので、保守派は他国から自国を守ろうと宣伝するし、リベラルも差別はいけないと啓蒙活動を行い支持者を増やそうとするのです。
でも、マクダーモット博士の実験が正しければ、啓蒙活動は無意味です。
いくら頭をこねくり回して考えても思想は変えられません。無理やり変えても体が拒否反応を示すだけです。
だとしたら、僕たちの脳は何のためにあるのでしょうか?
それは、本能を正当化するためにあります。
脳科学者池谷裕二は、人の行動は7秒も前に決まってるという結果を実験で証明しました。
彼は被験者を、脳活動を可視化できる装置「fMRI」に入れ、ボタンの付いたレバーを握ってもらいます。
するとスクリーンに「k」「t」などのアルファベットが0.5秒間隔で次々映し出されます。
被験者は左右どちらのボタンを押すか決めた瞬間を覚えておいて、ボタンを押した後に、そのときのアルファベットを申告します。
これによって意図が生じた瞬間を測定できます。
それを検証すると、意思決定前に脳の補助運動野では準備活動を示す準備電位が測定されました。
さらに、それよりもはるか前に、前頭葉皮質の2カ所で活動があったのです!
前頭葉皮質の左側部が反応したときは左のボタンが押され、中央が反応したときは右のボタンが押されました。
この活動は被験者が申告した意図の7秒前に起こっていたのです。
これはどういうことかと言うと、「人が行動しようと思う7秒前に、すでに脳は行動することを決めている」ということですね。
行動しようという意識が生まれる前に脳がそれを決めているとしたら、その行動は無意識の分野で決められていた、ということになります。
このように、脳というのは意識というものが生まれる前に、すでに判断を下しているんです。
そして脳は、すでに感知した感覚に対して、後から理由をつけていきます。これが意識や意志と呼ばれるものですね。
「生理的に嫌い」という言葉があるように、脳は生理的な判断を下します。
でもそれでは、なぜそういう判断を下したのかを他人に説明できません。
判断に理由を求められたときに備えて脳は言い訳を考えます。
ある政治家に対して生理的な嫌悪感を抱いたなら、「ハキハキしていない」とか、「説明が分かりにくい」といった具合で後からアラ探しをして、理由としてデッチ上げるんですね。
「結論ありきの会議」というのがありますが、それと一緒ですね。
すでに脳は好き嫌いを決めている。それを正当化するために、意識が理由をデッチ上げていくのです。
コロナウイルス蔓延をきっかけに、世界中でzoomなどのバーチャル会議が増えています。
この調子で、会議のみならずあらゆるものがバーチャル化していくでしょう。
選挙演説も実際に人が群がるようなものではなく、ネット配信で行われるのが主流になるのかもしれません。
そうなると、演説の場に出向き、政治家やその支持者たちの匂いを感じ取ることができなくなります。
彼らの発する空気を肌で感じ取れなくなれば、こうした感覚で政治家を選ぶことができません。
もしそうなれば、自分の肌感覚と遠い政治家を選ばされてしまうのかもしれませんね。
感覚的なものより、政治的な内容で判断できるようになるというメリットもありますが、やはり大事なことは感覚的なものも含めて総合的に決めた方がいいと思います。
その方が、本当に自分に合った政治家を選ぶことができるので。
「選挙演説に行っても、匂いなんてよくわからない」という人もいるでしょう。
マクダーモット博士の実験では脇に24時間当てていたパットの匂いを嗅がせています。
でも演説は基本的に野外で行うものなので、臭気が外気で分散され、そこまでの匂いは感じ取れません。
ただ、意識に上がるほどの匂いを感じられなくても、無意識でキャッチされることもあります。
その無意識で感じ取ったものが「なんとなく」という感覚です。
その「なんとなく」といった直感はきっと正しいでしょう。
立候補者に感じる「なんとなくのイメージ」、そこに群がる人たちの「なんとなくの雰囲気」。
その感覚を素直に受け止めることで、あなたにピッタリな政治家や政党を選ぶことができるかもしれませんね!
(ちなみに、「なんとなく」という直感は意外と高確率で当たると言う実験結果もあります。詳しくは以前書いた「直感の正しさ、何%?」にて)
参考
「読まなくてもいい本」の読書案内 橘玲
朝日ぎらい 橘玲
カラパイア
以上、【都市伝説系社会科学】ゆーごでした!
twitter:@yugohonjo