何でスイスかと言いますと、その国民性がこれからの時代に合っているのではと。
つまりタイトルの「真の理由」は、いつもの「日本の国民性」で終わりますけども。
いつぞや書いた以下の記事よりも、単純で決定的でかつ、絶望的な話です。
では、本題。
スイスの物価及び人件費が高いのは何故なのか?
現在の物価高を引き起こした原動力となったのは、以下のものでした。
◎人材の不足(→人を大事にする国民性を持つ)
ぶっちゃけた話(懐かしの横山たかし・ひろし風で)、これが最も大きいのです。
何故にスイスで物価高が起こっているのかと言いますと、時代の追い風を受けてそうなっているわけですけれども、この風はこれからも吹き続けていくことが予想されます(政治的な問題等が起きないものとして)。
その理由を先に言えば「スイスは国土が農業に不向きでしかも陸続きであったため、長い間、国民が仕事を求めて(主に傭兵として)国外に流出していた」という歴史があるからです。
つまり、かつてのスイス政府の立場では「ああー、出て行かんとってぇー!」と言って泣きながら国民の裾を引っ張っている状態であり、かつ「残ってくれるのならこんなことをしてあげるからー」とか言わなきゃならない状態でもあるわけで。
その国民の流出を阻止するためにスイス政府が何に力を入れたのか?
それが「雇用の創出」と「人材の育成」です。
特に有名なのは、観光を誘致するポスターなどのデザイナーですね。
山ばっかりで冬は豪雪、これを逆に言えば風光明媚で冬はスキーなどのウィンタースポーツが楽しめます。
選択と集中という用語がありますけど、スイスの場合は地理的な条件で、できることが限られていたのです。
昔であればそれこそ、一般の国民は国を出て傭兵をすることぐらいしかありませんでしたが、今は違います。
スイスが国を挙げて、出て行こうとする国民を引き留めるために国民に投資をした、それが今、実を結んできているわけです。
(先ほどデザイナーを例に挙げましたが、現在でもスイスでは優秀な人に対してのお金を出し惜しみすることはありません。
スイスの高級時計は高いですが、年収一億円以上を稼ぐ時計師さんはごろごろいますし、大学や大学院ですごい研究をしている優秀な学生さんは文系や理系など学部を問わず、すごい金額の補助金をもらうことができるとか)
もうちょっと詳しい話は「電子書籍『高級品で、これからの生き方を学ぶ』の第九章」と「同、第十章」で書いたことがありましたねそう言えば。
該当部分を以下、引用します(細かいことに興味のない方は読み飛ばしで)。
スイスは何故、今は裕福な国であるのか?
それは主に高級品を含む嗜好品の分野で、大成功しているからです。
これまで農業には不向きであったが故に大変な思いをしてきましたが、近年、それが逆に福と成す日がついに来たというわけです。
観光、高級なミルクチョコレート、高級な腕時計、金融……金融については特に富裕層向けのプライベートバンク等で有名であり、これも高級路線の金融業と言えるでしょう。
「山が多く雪が多い」ことで、風光明媚でスキーなどのウィンタースポーツを楽しむことのできる観光業。
また「雪が多く農業ができない」時期にしていた酪農で、練乳を作って売って大成功したネスレから始まり、上質の牛乳を使った高級ミルクチョコレート(リンツ他)へ。
同じく農業ができない間に納屋を改造して行っていた懐中時計の製作から、現在は美術工芸品と同じように扱われる高級腕時計(リシュモンやスウォッチ他)へ。
また金融業は、当初は傭兵同士の情報交換から始まったと言われています。
それは「どこでどういうことがあって戦争が起きているか、または起きそうであるか」という情報であり、単に求人が発生するかどうかということだけでなく、傭兵として働く家族や友人知人内での同士討ちを避けたいがためであったと言われているのです。
ここまでが第九章で、以下が第十章です。
しかし、スイス人にとってデザインは単なる付加価値ではく、スイスという国を象徴する本質的な価値であり宝物です。
何故でしょうか?
その理由は「デザインとはスイスの歴史そのものであり、大切な文化でもあるから」です。
スイスの高い山ばかりで農業に不向きなこの地形で、最初の大きな産業は観光業でした。
周辺諸国の人々に来てもらうために、観光用のポスターをたくさん作成しました。
つまりそのポスターによって、一人でも多くの観光客に来てもらえるかどうかで国が左右されるのです。
そこでスイスはデザイナーの養成に力を入れますが、これは出稼ぎのために流出する国民に対しての雇用対策の意味もありました。
そのような歴史を持つ国ではデザインが本質的な価値を持つのは当然でしょうし、それ故にスイスの腕時計はすべて、その本質的な価値をわかる人を顧客対象としているのです。
引用は以上です。
(それと陸続きであることは、価格を下げて無理して売らなければならない状況に陥りにくい、とも言えます。
この話にご興味ある方は、以下の記事もどうぞ。
スイスでは「ドイツ人の好みに合わなければ移動してフランス人に売るという方法がある」の一例です)
それに対して、日本が貧しくなっている理由とは、元はと言えば「人材の供給過剰」であるとも言えます。
つまり「スイスは陸続きであり、移動が容易く二か国語以上操れる人も多いがために、国民が流出しやすい」という国だったわけですけれども。
日本の場合は「島国で四方を海に囲まれており、日本語という独自言語を一つしか話せない国民がほとんど」です。
だから国民が流出しない上に、その国民性は勤勉そのもので、働かない人や働けない人、働くけど能力の低い人はバカにされるというオマケ付きで。
となりますと、皆がこぞって優秀な労働者になろうとしますから、当然ながら供給過剰の状態が起こりやすい、というわけです。
しかも、世の中やテクノロジーの進歩によって、機械の性能が良くなったりAIが賢くなったりして、そいつらの存在がさらに労働者の立場を危うくするわけですよ。
これはやばくないですか?
そしてさらに、スイス国民との大きな違いが存在します。
金融のリテラシーですね。
私が高校の時の社会科の先生は、以下のように仰っていました。
「昔からスイス国民は皆、外国に出稼ぎに行って稼いだお金をネスレというスイスを代表する会社にこつこつ投資して、年を取って働けなくなったらその配当金や値上がり益で、悠々自適な老後に入る」
「スイスは銀行などの大きな金融機関だけではなく、国民もすごい」
あの時からえー何年経ったかと言うと、年齢がバレるので書けませんけども。
このことも冒頭のリンク先の記事内の、欧米と比べて日本は国民が投資していない(だからそのリターンも受け取ることができなかった)という話に繋がります。
こうやって比較すると、絶望的な話ではないでしょうか。
地理とか歴史とか、そういうものって選べないですから。
とはいえ、今のスイスが豊かなのは、それまでのスイス国民が傭兵になるしかなかった長くて辛い時代を経てのことですから。
我々が今、逆風の真っただ中にいても、この時にちゃんと種まきをしておけば、来るべき時代に再び花を咲かせることができるはずです。
とはいえ、そんな種を蒔く余裕のある人って、日本の国民の中にどんだけおるんですかね。
……あ、やっぱ絶望的な話になってもーた。
書きたかったことは以上ですが。
ここに書いた話よりも、むしろ詳しい話にご興味のある方へ。
以下の世界の物価.com様の記事が参考になります。
ここではスイス人の「給与が高いこと」と「環境保護意識が高いこと」を挙げておられますけど。
その根本的な理由が、先ほどの話となります。
「国土には何にもない、だから観光と人材育成を。
そしてそこから始まったからこそ、それがスイスの大切なものであると。
そして、その意識が一人一人のスイス国民の中にあると」
これは我々日本人が、そう簡単に学べることではありません。
……でも、学ぶべきことだけど。