運動が私たちの健康に良い影響を与えることは広く知られていますが、具体的にどのような運動が、どのくらいの時間続けることで効果が出るのかについてはまだ多くの議論が存在します。
最新の研究レビューでは、わずか30分未満の運動でも脳に大きな影響を与える可能性が示されており、短時間の激しい運動が認知機能を向上させる効果があることが分かっています。
今回の記事テーマとして取り上げていきます。
参考記事)
・Less Than 30 Minutes of Exercise Does Something Wonderful For Your Brain(2024/10/30)
参考研究)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究者チームは、過去の113件の研究データを基に、運動時間と健康への影響について詳細に分析しました。
研究対象となったのは、合計4,390人の参加者で、異なる種類の運動とその認知機能への影響を調査されました。
今回の研究では、1回の運動セッションに限定してその効果を分析しており、特に高強度インターバルトレーニング(HIIT)やサイクリングなどの激しい運動が脳の「実行機能」に最も大きな効果をもたらすことが示されました。
「実行機能」とは、短期記憶や意思決定、計画立案、問題解決、マルチタスク能力といった認知プロセスの一部で、日常生活や仕事の効率を高める上で重要な役割を担っています。
今回の研究では、運動によって特にこの実行機能が向上することが強調されています。
このことは、神経科学者のバリー・ギーズブレヒト氏を含む研究チームの分析により確認されています。
彼らは「短時間の運動でも認知機能にポジティブな効果を与えるという最も強い証拠が得られた」と述べており、運動が脳に及ぼす影響に対してさまざまな要因が関与していることも指摘しています。
しかし、全ての認知機能に対して一律に効果があるわけではないこともわかりました。
例えば、運動によって参加者の反応時間は改善されましたが、同時に行われた認知タスクの正確性が向上するわけではありませんでした。
これにより、運動が脳に与える効果が一筋縄ではないことが示唆されています。
また、運動による効果を最大化するには、短時間の運動の強度を上げることが手取り早い方法だとしています。
研究では、30分未満の短時間の運動が脳に最も効果的であることが分かりました。
この結果は、日常的な長時間の運動(散歩や軽いジョギング)よりも、短時間で強度の高い運動(息切れを起こす程度)を効率的に取り入れることが脳にとって効果的である可能性が示唆されています。
しかしながら、この効果は補助的なものでもあるため、過剰な期待を抱くのではなく、日常的に運動を続けることが重要としています。
研究チームはまた、運動の強度とパフォーマンスの関係についても新たな見解を示しています。
一般的に、運動の強度は逆U字型の関係があるとされており、適度な強度の運動が最も良い効果をもたらし、強度が過剰であると逆にパフォーマンスが低下するというのが定説です。
しかし、今回の研究では、激しい運動であってもその効果が必ずしも減少するわけではないことが示され、特に短時間の高強度運動が認知機能にとって有効である可能性が明らかになりました。
この結果は、普段運動習慣がない人にとっても、わずか10分の運動でも十分に脳に良い影響を与えられることを示しており、運動のメリットを実感するためのハードルを低くする要因として期待されます。
脳への効果以外にも、短時間の運動が心臓の健康に与える影響についても研究されています。
例えば、HIITなどの高強度運動は、心臓血管の健康を向上させ、将来的な健康リスクを低減させることが示されています。
このように、短時間の運動は脳だけでなく、体全体の健康にも大きなメリットをもたらす可能性があるのです。
今回のレビュー研究を担当したチームは、今後さらに新しいデータを収集し、実際の運動セッションと実験室内でのテストを通じて、運動と認知機能の関係についての理解を深めていく予定です。
「有酸素運動によって、特に実行機能や反応時間を測定する認知タスクのパフォーマンスが全体的にわずかに向上するという中程度のエビデンスが得られました」と研究者たちは述べており、今後の研究がこの分野の理解をさらに深めることが期待されています。
・短時間の運動(30分未満)でも認知機能にポジティブな影響がある
・わずか10分の運動でも脳や心臓に良い影響を与えられる
・激しい運動(サイクリングやHIIT)が効果的
・運動習慣がない人でも取り組むと良い