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「将軍」がそれほど偉くなかった時代の話

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  • トモヒデ
  • 2020/03/05 15:23

 

◆足利義輝登場

大河ドラマ「麒麟がくる」を毎週見ている。

明智光秀を主人公にして、どう物語を描くのだろう・・・と、半ば怖いもの見たさのような気分で見始めて、今のところ毎週見ている。

 

見どころや触れたい部分は多いのだけれど、今回は将軍について話したい。

 

このドラマには、室町幕府の13代将軍、足利義輝が登場する。

演じるのは向井理さんだ。

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今のところ、登場場面はわずかしかないが、その出で立ちがまことに美しい。

一部では「神々しい」と絶賛されているようである。

 

さて室町幕府と言えば、統治機構としては非常に弱体だったとされている。

将軍の力が弱く、大名たちを統制できなかったという。

この点について、私はつねづね疑問を抱いてきた。

 

権力などないに等しいにも関わらず、なぜ室町幕府は、15代・250年の長きにわたって存続したのだろう?

 

◆絶対視されていなかった将軍位

そんな長年の疑問に対し、最近ふと、一つの回答を得た。

「弱体なのに存続した」と考えるから不自然なのだ。

「弱体だからこそ、誰もそれに成り代わろうとしなかった」と考えれば、何も不思議ではない。

 

そもそも、「将軍は偉い」という感覚は、江戸時代のものだ。

戦国時代以前は、そうでもなかった。

最初の武家政権である鎌倉幕府において、2代頼家、3代実朝という二人の将軍が暗殺され、初代頼朝の血統が途絶えたのは有名だ。

将軍が殺されたというだけでも、当時の人々が将軍を絶対視していなかったことは明らかだし、その後将軍になった公家出身の将軍も、執権の北条氏によって追放されたりしている。

 

室町幕府では、6代義教が暗殺された。(嘉吉の乱)

13代義輝も、謀反によって討ち死にする。(永禄の変)

その他の将軍も、敵から逃れて京から退去したりしている。

最後の15代義昭は、織田信長によって京を追放され、ついに復権することはなかった。これが室町幕府の滅亡だとされている。

 

将軍の地位は、神聖不可侵でもなんでもなかった。

まるで一大名か、時にそれ以下の勢力であるかのように、普通に他の大名と争う。

そして、負ける時は負けている。

将軍は、地位こそ上だが、扱いとしては武家の一つに過ぎなかった。

 

◆将軍は「表向きの団結」の旗印

将軍の地位は、神聖でも絶対でもない。

 

それでは、幕府というのは、一体何なのか。

幕府とは、要するに「有力大名の連合体だった」ということである。

鎌倉幕府からして、源氏の御曹司である源頼朝という(格上の)人物を担ぎ上げることによって、東国の諸勢力が連合したというのが実態だったろう。

 

将軍とは、武家の連合の象徴だったのだ。

 

しかし、武家は一見連合しているように見えても、裏では誰もが自己の権力拡大を狙っており、そのために将軍を利用しようとする。

その過程で、諸勢力にとって都合の悪い将軍は廃されたり、追放されたりしたのだろう。

 

つまり、将軍の地位は、「その時の権力者の承認」に依存しているのだ。

有力大名が結束して将軍を祭り上げる限り、将軍は安泰である。

しかし有力大名たちが権力闘争を始めれば、将軍はそれに巻き込まれてしまう。

 

そんな不安定な将軍の地位に、誰が成り代わろうとするだろうか?

室町幕府が存続したのは、将軍に実権がなかったからこそなのだ。

 

◆家康の知恵

「武家の棟梁」とは名ばかりで、実権を持たなかった将軍。

鎌倉・室町の両幕府の姿を、他山の石としたのが、徳川家康だった。

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江戸幕府を見ると、過去の幕府との明確な相違点が三つある。

 

まず、将軍家を神格化した。

周知のように、家康は東照大権現として、日光に祀られている。

 

次に、有力大名を幕政から排除した。

石高の大きな大名は、金沢の前田家にしろ、薩摩の島津家にしろ、仙台の伊達家にしろ、幕政に参与できなかった。

こうすることで、将軍は、有力者の傀儡となることを免れた。

 

そして最後に、徳川家を、名実ともに「最大の大名」とした。

俗に言う「八百万石」というのは誇張だとしても、徳川家の所領は飛び抜けており、まさにダントツであった。

 

この三点によって、江戸幕府の将軍は、ついに絶対の存在となりおおせた。

つまり、「将軍は偉い」と誰もが認める存在になった。

 

◆「悲劇の剣豪将軍」はどう描かれるか

そこから振り返ると、室町幕府の足利氏は、自らを絶対視させるような材料に、非常に乏しい。

江戸時代の将軍に比べると、信じ難いほどの侮りを受けていただろうと思われる。

 

前述したように、13代将軍の足利義輝は、謀反によって討ち死にする。「永禄の変」である。

伝説によると、自ら武器を手にして戦い、ついに敵の刃にかかるという、壮絶な最期だったという。

 

これが、大河ドラマの中でどのように描かれるのかは分からない。

ただ、キャストビジュアルの甲冑姿、そしてそこに添えられた「悲劇の剣豪将軍」という文句からして、その最後の奮戦が、ドラマチックに描かれるものと期待できる。

ドラマ前半の山場になるかもしれない。

楽しみだ。

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(2020年3月6日)

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