著者 市川沙央
発行 文藝春秋
ジャンル 小説
テーマ 介護、障害者
ページ数 93
釈華 障害者。グループホームで暮らす。リモート大学生。両親は死別。40代女性。
田中 グループホームの介護士。30代男性。普段は別の人のケアを担当。
山下 グループホームの介護士マネジャー。釈華の両親が連れてきて、付き合いは長い。ベテラン女性。釈華のケアを担当することが多い。
須崎 グループホームの介護士。ベテラン女性。釈華のケアを担当することが多い。
釈華は親の遺産でグループホームに暮らしています。建物自体、親が持っていたもので釈華が相続しました。お金はうなるほどあり、働く必要はありませんが「健常者がしていることを私もしてみたい」の想いで雑誌などに文章を投稿したりクラウドソーシングで記事作成を受注したりして小金を稼いでいます。大学はすべてリモートで受講できるようになっています。釈華本人は「学歴ロンダリング」と言って自分を卑下することもあります。
釈華の「健常者がしていることを私もしてみたい」の想いは大きくなっています。ついにはSNSに「妊娠してみたい」「障害のため子供は産めない。なら、堕胎してみたい」とまで書くようになりました。しかし釈華のフォロワーは少ないため、いつも反応はありません。
担当の山下、須崎の欠勤がたまたま重なり、ある日男性介護士の田中が釈華のケアをすることになります。田中はケアを済ませると、釈華のSNSを見ていることをほのめかします。釈華はチャンスととらえ、お金と引き換えに妊娠を田中に希望します。簡単な交渉の後、釈華は口淫におよびますが、誤嚥のため行為を最後まで行えず、田中は逃げ去ります。
田中は退職し、釈華は誤嚥性肺炎のためしばらく療養を余儀なくされます。自室に戻ると、引き出しに用意してあった田中への報酬の小切手はそのままでした。田中がもっと悪人だったならよかったのに、と釈華は思いました。
hunch backは猫背、せむしという意味があります。釈華はミオチュブラー・ミオパチーという先天性の筋疾患のため、背中が大きく曲がっています。これは、著者の市川氏と同じ病気です。
本書を読むと、障害者が健常者をどう思っているのか、その一端がわかります。健常者が当たり前にできることを、障害者はできません。それが嫉み、妬み、僻みとなり、呪いになります。
親の遺産を相続した障害者の子は、子をなせないがために相続できず、遺産を国庫に帰属させられる(別の言い方では没収される)ことが多いと本書にあります。生産性のない障害者でも、相続できず国庫に没収されるなら溜飲が下がる者も多いのではないかとあり、自由民主党の杉田水脈が読んだらどう思うか知りたくなりました。
本書の最大の呪いは、エロがベースになっていることです。釈華は親の遺産を相続し働く必要はありませんが、健常者以上のことをしたいため働いたお金で寄付をしています。体の動かない釈華がてっとり早く稼ぐには、エロの文章を書くことが一番だと見切っています。古今東西のエロを研究し、売れるエロ記事を追究し一言一句推敲することに余念がありません。エロ記事の例が本文に載っていますが、本書を読んだ読者は今後エッチなシーンになるたびに本書のことを思い出し、萎えてしまうことになります。なんという呪いでしょう...
著者の市川氏は障害者であるため、実際に風俗店に足を運んだことはないと思われます。それなのにまるで見てきたようなエロ文章を書けるとはまいりました。これまで、ライトノベルを書いたこともあるそうで、すさまじい努力をしてきたことがわかります。とてつもない読書量なのでしょう。体をいたわって欲しいものですが、市川氏は今後も身を削って書いていくでしょう。
健常者以上のことをしたいために。
以上