書名 未来への大分岐
副題 資本主義の終わりか、人間の終焉か?
発行 集英社
著者 斎藤幸平(インタビュアー)
インタビューされる人 マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソン
ページ数 342
以下は敬称を省略します。
大阪市立大学大学院経済学研究科准教授の斎藤幸平(哲学博士、ドイツの大学を卒業)が、三人の知の巨人と経済、哲学・思想、AIの発展、社会運動、ベーシックインカム、ポスト資本主義などについて議論します。
私は、最近よく名前を聞くようになったマルクス・ガブリエルがどういう人か知りたくてこの本を購入しました。マルクス・ガブリエルによれば「世界は存在しない」とのことですが、この本でもその実在論について簡単に触れています。マルクス・ガブリエルはドイツ・ボン大学教授、斎藤もドイツ・フンボルト大学を卒業ということで、きっとドイツ語で語り合ったのでしょう。他の二人は知りませんでしたが、いずれ劣らぬ知の巨人でした。
コモンという概念を提唱しています。コモンとは、上(政府)から押し付けられていない公共財のことです。森林や水源、電力供給システムなどです。ハートは、コモンを民主的に管理する経験が、民主的な政治がどのようなものなのか、輪郭を与えてくれると述べています。ウィキペディアはコモンではないようで、法的には創設者のもののようです。民主主義を守るには、上からの押し付けでない社会運動が重要とのことでした。
斎藤はマイケル・ハートとあまり意見が合わなかったようで、反論が多いです。ハートの方は押され気味のように見えました。ただ、斎藤は少し悪かったと思ったらしく、最後の「終わりに」でハートの主張をあらためて取り上げています。
本書を読んで、ガブリエルは天才だと思いました。「私は哲学を、現代の複雑な問題を解決するためのものとして再起動しました。哲学だけが、グローバルな危機の解決に向けて大きく貢献する知を生み出すことができるのです。」なんと自信に満ちた言葉でしょうか。まるで「なぜわたしはこんなによい本を書くのか(この人を見よ)」と言ったニーチェのようです。しかしガブリエルは本書の中でニーチェを完全否定します。どうやら、現代のドイツ哲学は、ホロコーストの反省から、善や道徳、倫理、正義といった考えを内包しているようです。ニーチェ自身、ナチスに利用されています。
本書の中で、「宇宙は存在しない」「ユニコーンは存在する」ことの説明も簡単にですがされています。一種の思考実験ですが、なるほどと思いました。
メイソンは経済の専門家ですが、ITについても造詣が深い人でした。AIやロボットの発展を的確に把握しています。AIとロボットが発展していくと、人間は今までより働かなくてよくなります。「勤労は善」という資本主義倫理が揺らぐことになります。以下の4つのポスト資本主義へ導く要因があります。
1. 限界費用ゼロ効果
2. オートメーション化
3. 正のネットワーク効果
4. 情報の民主化
モノがあふれる潤沢な社会においては、今まで通りの過剰生産・過剰消費を続けられません。これをやめて、環境負荷を減らして地球を救いたいという想いには共感しました。
斎藤はリベラルの復権を願っています。社会運動を環境保護につなげて、ほぼ壊れてしまった資本主義の次の世界に導いてくれるリーダーが出てくれないかと。こういう人が政治家になってくれないかなと思いました。
NHK新書に「知の逆転」などの知シリーズがあります。本書の読者には、このシリーズを合わせて読むことをお勧めします。マルクス・ガブリエルが本書でノーム・チョムスキーを批判していますが、チョムスキーのインタビューも載っています。知シリーズは吉成真由美というインタビューアが書いていますが、本書と違ってほとんど反論もせずおとなしいです。性格が出ているのかなと思いました。
ドラッカーの「ポスト資本主義」も読みたいですね。(持ってるだけで、ずっと積んだままです。。。)
以上