NHK大河ドラマ『青天を衝け』は2021年5月16日に第14回「栄一と運命の主君」を放送しました。今回は渋沢栄一と喜作が一橋家に仕官します。ようやく第1回冒頭の一橋慶喜との対面シーンに追いつきました。一橋家に仕官するしか選択肢がない状態に見えますが、栄一らは簡単に首を縦に振りません。熟慮期間を設けることは自己決定権を正しく行使するために必要です。
第13回でお休みした徳川家康が今回は登場しました。自ら「休んだ」と発言し、ピンチという江戸時代の人物ならば使わない表現を用いました。
今回は幕末の歴史も動きます。一橋慶喜が参預会議を潰します。慶喜が中川宮朝彦親王らとの酒席で島津久光や松平春嶽、伊達宗城を「天下の大愚物」と罵倒した話は有名です。これは慶喜が酒に酔った上で無駄に敵を作った意味不明の行動と描かれる傾向がありました。
これに対して『青天を衝け』は慶喜の怒りの動機が理解できるように描きました。栄一の言動が慶喜に影響を与えたと描くことで、栄一の物語としても良くできた脚本になりました。幕末史は薩長の視点で描かれることが多いです。過去にも『新選組!』『篤姫』『八重の桜』と幕府側を主人公とした大河ドラマもありますが、主人公は政争の中心からは外れていました。『青天を衝け』は幕府の立場を分かりやすく描いています。
慶喜は徳川を守る決意を固めます。親藩大名の松平春嶽と外様大名の島津久光という一見すると逆の立場に見える二人が同じ利害にある理由は、幕府政治が譜代大名で占められており、自分たちが政治から排除されているためです。外様大名の幕政排除は幕府の成り立ちから自然ですが、親藩大名も同じです。親藩大名も朝廷の下での大名会議で政治を進めることを歓迎する動機があります。
慶喜も譜代大名の門閥に怒りを覚える点は同じでしょうが、一橋家は独立した藩ではなく、将軍家の身内扱いでした。好むと好まざるとに関わらず、徳川宗家というバックに依存する立場です。ここが久光だけでなく、春嶽とも対立する要因になります。
一方で慶喜の「徳川を守る」には幕府官僚機構を守ることは含まれないでしょう。慶喜は参預会議崩壊後に将軍後見職を辞し、朝廷から禁裏御守衛総督に任命されます。幕府官僚機構ではなく、朝廷とのパイプを権力基盤としました。この点が戊辰戦争で錦の御旗を相手に徹底抗戦しなかった慶喜の弱さになります。
慶喜は前言を簡単に翻すとして二心殿と揶揄されました。「徳川を守る」と決意しながら、後の戊辰戦争での逃亡や恭順は正に二心殿になります。しかし、「徳川を守る」に幕府官僚機構を守ることを含まないならば、一貫性を持って描くことも可能でしょう。
『青天を衝け』第5回「栄一、揺れる」攘夷はNo Drug
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