2019年参議院議員選挙に「れいわ新選組」公認で立候補した大西つねき(大西恒樹)さんが2020年7月3日に自身のYouTubeチャネルで高齢化対策として「命の選別」が必要と主張しました。この発言は大きな批判を集め、大西さんは一旦発言を謝罪しました。その後に謝罪を撤回し、れいわ新選組離党を表明しました。れいわ新選組は16日に総会を開き、大西さんを除籍処分にしました。
私はインターネット放送局「日本海賊TV」の番組「民主主義再興のための作戦会議 第3回 今こそもう一つの政治を創らなければいけない」(2017年12月16日)で大西さんと同席したことがあります。今回の発言も謝罪の撤回も残念です。一方で今回の発言から根本的な人格批判も起きていますが、むしろ社会全体を良くしようとする、個々人よりも社会全体から物事を見る思想の落とし穴と感じています。
命の選別発言を批判することは大西さんの信条に照らして容易です。大西さんは自己のWebサイトで自己の信条を「私、大西つねきが最も大事にすること、それは「一人一人の心の自由」です」と書いています。大西さんは人の時間と労力という「実体リソース」が有限であることから、有限なリソースの配分のために選別を考える必要があると主張します。しかし、それは選別される側の自由を損ないます。個々人の自由を出発点とするならば、社会のために個々人を選別するという発想は出てきません。大西さんは自分の信条を振り返って猛省する必要があるでしょう。
れいわ新選組は木村英子参議院議員、舩後靖彦参議院という重度の障害を持った国会議員を擁する日本で初の政党です。「命の選別」発言に、れいわ新選組支持層から強い批判が出ることも自然な帰結です。これに対して大西さんは7月17日の記者会見で「私の発言はあくまでもご高齢者に関することで、障害や難病を抱えた方たちに対しては一言も言っていない」と釈明します。しかし、高齢者だからと線を引くことが問題であって、線を引くならばやがては障害者も含まれると批判する相手への釈明にはなりません。しかも、現実に高齢者の過少医療が問題になっています。高齢者の選別自体が問題です。
一方で大西さんは記者会見で「私の思想に問題があり、それを2回のレクチャーという教育によって矯正し、人は変われるというところを見せて再出発というシナリオに思えた」と述べています。昭和の左翼運動的な総括・査問会体質が、大西さんが態度を硬化させて謝罪を撤回した原因と言えそうです。
大西さんはトレーダーの経歴があります。ここから、れいわ新選組の支持層の大勢は生産性を重視するビジネス感覚が高齢者の命の選別に繋がったとする見方になるでしょう。これは、れいわ新選組の中では特殊な大西さんのバックグラウンドを原因とすることで、支持層の大勢にとって心地良い結論になります。
しかし、命の選別は個々人の自由を尊重する大西さんの信条から出てくるものではありません。むしろ、現代貨幣理論Modern Monetary Theory; MMTのような支持層の大勢が信奉する思想から出てくるように思います。MMTは通貨や財政を本来の機能で考えずに、社会を良くするための道具として使い倒そうとする思想です。社会を良くすることを目的とすると、個々人は社会を良くするための手段になりかねません。社会を良くするために個々人を犠牲にすることを正当化する思想も出て来るでしょう。
大西さんは、れいわ新選組を離れても政治活動を続けると表明しました。そこでは改めて自由が強調されます。これは昭和の左翼運動的な総括・査問会体質のアンチテーゼとして意味のあることです。願わくは個々人の自由には、社会的要請から選別されることを押し付けられない自由が含まれるものであるとして欲しいものです。
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