
NHK大河ドラマ『どうする家康』第21回「長篠を救え!」が2023年6月4日に放送されました。今回は鳥居強右衛門を描きます。忠義の武士として戦前は偉人扱いされた強右衛門ですが、『どうする家康』はステレオタイプな歴史観を打破します。「ろくでなし」と呼ばれ、忠誠心の塊ではないような人物が英雄的な活躍をすることに味があります。
武田勝頼は奥三河の長篠城を包囲します。城主の奥平信昌は救援を求めて鳥居強右衛門を岡崎へ送り出します。強右衛門は川を潜って武田軍の包囲を抜けました。走って伝える話は金ヶ崎で描かれました。今回は泳ぐことをクローズアップします。
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徳川家康は織田信長に救援を求めますが、やって来たのは三方ヶ原でやる気のない救援に来た水野信元と佐久間信盛です。家康は強気で要求します。信元も信盛も後に排除されます。強気な態度でも役に立つ家康は生き残ります。

信長は家康に清州同盟を解消し、家臣になることを要求します。織田信長からタイトル「どうする、家康」の台詞が出ました。武田勝頼や上杉謙信が健在な状況での同盟解消は信長の方が困ることになりそうです。家康は信長のツンデレを理解するところがありますが、家康以外の徳川家の面々は純粋に立腹するでしょう。後に家康の下から出奔して豊臣秀吉に帰属する石川数正も、ここでは秀吉に取り込まれずに反論します。
瀬名や松平信康が織田は信用できないと考え、武田と組むことも十分な選択肢になると感じさせるものです。火坂雅志『天下 家康伝』では徳川家を家臣のように扱う信長への信康の反感を築山殿事件の背景として描きます。『どうする家康』の瀬名には今川義元を破った織田信長憎しの感情はありません。築山殿事件は瀬名に共感できる展開になりそうです。
最後に信長は「ほんの余興」と言って脅迫・強要をなかったことにします。『麒麟がくる』の信長も明智光秀にパワハラしましたが、後で卑怯にも徳川家康の反応を見るための演技だったと言い訳します。『どうする家康』の信長も『麒麟がくる』の信長と同じく本能寺で殺されることは避けられないでしょう。
『麒麟がくる』最終回「本能寺の変」
一方で徳川家の反発も長篠の人々への差別意識が背景にあり、この点は共感しにくいです。同じ三河の人々が奥三河を差別することは片腹痛いです。
強右衛門は織田・徳川の援軍が来ることを伝えるために長篠城に戻ろうとします。しかし、妄想していて武田軍に囚われてしまいます。戦前の偉人とは異なるカッコ悪さです。自己犠牲の英雄的行為も最初から覚悟したものではなく、迷った末の発言でした。
武田の兵士から見下されたことが原動力です。最初に武田勝頼が強右衛門を忠義の武士と持ち上げたことが台無しです。武田氏の滅亡を勝頼の能力不足や驕りとする見方が伝統的ですが、武田の武士達が権力に酔って驕っています。戦前的な忠義の物語ではなく、権力を振りかざして見下す連中への痛烈な反撃と描きました。
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