NHK大河ドラマ『青天を衝け』は2021年6月13日に第18回「一橋の懐」を放送しました。一橋慶喜が天狗党を討伐します。既存の作品では慶喜の天狗党への対応は冷酷、保身と描かれがちでしたが、『青天を衝け』では迷惑ということが分かります。
一方で降伏した天狗党への厳しい刑罰は慶喜の意図ではなく、幕府が勝手にしたことと描きました。幕府軍総督の田沼意尊は田沼意次の子孫です。天狗党の乱暴狼藉を見ており、天狗党討伐の軍資金集めで家老が切腹するという悲劇もあり、天狗党に過酷になる理由はあります。慶喜は武田耕雲斎ら穏健派の扱いを区別することを望みましたが、無視されました。
残虐な出来事という歴史的事実に対して歴史上の人物をどのように描くかは歴史ドラマの一つの課題です。無力だから残虐な出来事を止められないという描き方は過去の大河ドラマでも見られます。この種の「主人公側の人々は悪くない」演出は辟易するところがあります。しかし、『青天を衝け』では一橋家が固有の武力を持たない無力な存在だからとして、一橋家の兵力を集める展開につなげたところは脚本の妙があります。
兵を集めると兵を養うための資金が必要になります。借金で乗り切ろうとする安易な発想に対して渋沢栄一(篤太夫)は「借りた金では豊かにならない」と反論します。これは一橋家に仕官したばかりの栄一が金を借りた猪飼勝三郎の前で言っています。借金を当たり前と思わない健全性があります。
借金の多さを信用の大きさと考えるような右肩上がりの昭和の経営感覚への批判になります。渋沢栄一が2020年代に取り上げられることには、昭和の延長線上を否定するという令和の時代意識が反映されているでしょう。
『青天を衝け』第5回「栄一、揺れる」攘夷はNo Drug
『青天を衝け』第14回「栄一と運命の主君」
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