メキシコのサルバドル・シエンフエゴス前国防相が2020年10月16日に麻薬密売などの罪で米国の検察に起訴されました。前政権時の国防相として麻薬犯罪対策を指揮しながら、自身も麻薬組織のトップとして君臨し、「エル・パドリーノ」(ゴッドファーザー)と呼ばれていました(岡田玄「麻薬組織の首領の正体は…メキシコ前大臣、米で身柄拘束」朝日新聞2020年10月17日)。
国家権力を行使する人物が依存性薬物密売の黒幕という展開はフィクション作品でしばしば描かれてきました。それがフィクションにとどまらず、事実でもありました。これを「中南米だから」と見ることは正しくなく、日本も他人事ではないでしょう。現実に警察官の大麻汚染が増えています(林田力「若年層の大麻汚染は危険ドラッグが罪作り」ALIS 2020年8月3日)。
警察官が覚せい剤事件を自作自演する事件も起きています。愛知県警岡崎署地域課の男性巡査部長(36)は予め知人に覚醒剤を渡した上で、職務質問を行って摘発し、事件をでっち上げた容疑で2020年10月16日に書類送検されました。愛知県警は「覚醒剤の量も微量」として巡査部長を逮捕せず、「懲戒処分は通常匿名発表」と実名を伏せました(「覚醒剤付着の袋を知人に渡し検挙した疑い 警察官を処分」朝日新聞2020年10月16日)。由々しき事態の割に愛知県警の対応は疑問を抱きたくなるほど微温的です。
警察の違法薬物相談でも驚くべき事件が起きました。警視庁組織犯罪対策5課の元警部(63)は2020年10月6日、警視庁に相談に訪れた女性の上半身裸の下着姿をスマートフォンで撮影したとして特別公務員暴行陵虐容疑で逮捕されました。この元警部は薬物犯罪者の社会復帰に尽力する人物としてマスメディアに取り上げられていました。社会復帰と言えば聞こえが良いですが、日本警察の薬物犯罪捜査ではS(エス)と呼ばれるスパイを作る手法が行われています。裸の写真撮影は自分の言いなりのSを作ろうとしたのではないかとの考えも出てきます。
『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』著者の稲葉圭昭さんは以下のように指摘します。「密売人をエス(スパイ/spyの頭文字)にして、どんな奴が買いに来ているかの情報を取って捜査していく方法だった。それで、エスの密売は見逃してやるわけ。もちろん、今もみんなやってる。薬物や拳銃の捜査は水面下でやるから、不正も起きやすい」(「伊勢谷友介、強い恨みを買っていた可能性も…警視庁とマトリが競って芸能人を逮捕する理由」Business Journal 2020年9月9日)
メキシコの事件は前国防相ということで大きく注目されました。しかし、警察署長など現場レベルの密売組織との癒着は前々から現実視されていました。公務員組織の腐敗は上だけの問題ではなく、下も起きます。現実は2020年のテレビドラマ『半沢直樹』のように巨悪一人が悪い奴で、それを倒せば良いというほど単純ではありません。日本はメキシコを笑えないでしょう。
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