NHK大河ドラマ『どうする家康』第27回「安土城の決闘」が2023年7月16日に放送されました。徳川家康は築山殿事件を経て織田信長を殺す覚悟を決めました。信長は築山殿と信康に明確な殺意を抱いておらず、二人の死は徳川家内の意思疎通の不徹底にありました。信長個人は家康に人間的には行為を抱いている節もありますが、それでも家康の殺意は信長に向けられます。
現実社会では袴田事件の検察の有罪立証や名古屋入管のウィシュマ・サンダマリさん死亡事件での非人間的対応が批判されています。これらでも公務員が明確な悪意を持って振舞っている訳ではないために逆に始末に負えないところがあります。信長への殺意がブレない家康は本質を捉えています。家康を演じる松本潤さんは『99.9 刑事専門弁護士』で冤罪を追及する弁護士を演じました。不合理を追及する姿勢が重なります。
99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE
家康らは安土城で織田信長の饗応を受けます。明智光秀は信長に家康の毒殺を提案します。信長は殺すとしても毒殺という卑怯な手段は求めないでしょう。家康は光秀の料理に「贅沢なものは食べ慣れていない」と言って食べようとしません。健康を意識し、贅沢を嫌った家康らしさがあります。
値段と味は比例しません。『どうする家康』の光秀は『麒麟がくる』と異なり、俗物に描かれています。贅沢な料理を出せば相手が喜ぶだろうという俗物精神が出ています。『どうする家康』では明智光秀が天海になる可能性はなくなりました。
信長と家康は二人きりで話します。信長は家康を怒らせることを言いますが、結局は家康に支えて欲しいと思っています。二人は陰謀を隠すのではなく、腹を割って話しています。ここは虚実の駆け引きが横行した戦国時代であり得ないと批判があるかもしれません。しかし、信長も家康も卑怯なだまし討ちを嫌うという真っ直ぐさを持っていることの演出になります。
信長は本能寺に少人数の護衛しか連れて行きませんでした。これは信長の油断と評価されます。『どうする家康』では反対に覚悟の上の行動と描きます。歴史的事実を従来とは違う解釈で説明することが巧みです。
本能寺の変は家康黒幕説どころか家康実行者説になりそうな勢いです。一方で光秀が実行者という史実は厳然と存在します。家康が光秀を使嗾する展開はこれまでのところ見られません。史実が分かっているのに次回が待ち遠しいです。
家康も計画していたが、光秀が先に実施したとなるのでしょうか。信長は本能寺の変で光秀が謀反を起こしたならば「是非もない」と言ったとされます。しかし、『どうする家康』の信長は家康に殺されるならば「是非もない」でも光秀に殺されることは無念を抱きそうです。それとも家康が忍びを使って密かに殺した後で光秀の大軍が本能寺を攻撃して光秀の謀叛となるのでしょうか。
いずれにしても信長と家康の対決に光秀が乱入する形です。『どうする家康』と同じく古沢良太さん脚本の映画『レジェンド&バタフライ』は信長と濃姫の愛を描きますが、光秀が三角関係的に入り、本能寺の変が起きます。『どうする家康』は信長と家康の関係にBLを想起する視聴者もいました。そこに光秀が入り、三角関係になるのでしょうか。
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光秀の乱入が家康にとって想定外ならば伊賀越えは家康の危機になります。『どうする家康』という大河ドラマらしからぬタイトルが発表された際に最初に想起したものは『真田丸』の情けない家康の伊賀越えです。『どうする家康』の家康は築山殿事件で覚醒し、天正伊賀の乱で信長に抵抗した伊賀者を密かに保護しており、信長殺害を計画していますが、それでも想定通りにならずに「どうする?」となるでしょうか。
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