NHK大河ドラマ『どうする家康』第25回「はるかに遠い夢」が2023年7月2日に放送されました。築山殿事件を悲劇として描きます。築山殿の悪女の冤罪を晴らし、五徳や酒井忠次を悪者にしません。信長を無実の人を粛正する猜疑心に取りつかれた権力亡者にも描きません。滅亡する武田勝頼を同情させないようにする巧みな脚本です。
第24回「築山へ集え!」で明らかになった瀬名の構想はお花畑と一部視聴者に不人気でした。しかし、不評は朝廷を無視した東国国家論だからという面があるかもしれません。豊かな東国が緩やかに連合して自立すれば天下統一は必要ないという発想です。これが中央集権の常識に縛られた一部現代人の気に食わないかもしれません。その意味で『どうする家康』は『鎌倉殿の13人』の後継ドラマとして相応しいものです。
五徳が信長に手紙で讒言したことが築山殿事件の原因とされることが多いですが、『どうする家康』は瀬名の作戦でした。酒井忠次が信長の前で五徳の手紙を否定しなかったことから、築山殿や松平信康の処刑を実は望んでいたとする説があります。『どうする家康』では五徳の手紙自体が徳川家の作戦であるため、否定しないことも作戦になります。五徳も含めて徳川家は団結しています。
内部対立はありませんが、徳川家康の覚悟が瀬名や信康と比べて足らないです。死なせたくないならば離縁や廃嫡にして幽閉という選択肢もあったでしょう。世の中をだますことをするから失敗します。他人を身代わりにして生き延びることは主人公側の選択ではありません。
服部半蔵は失敗して怒られることが多いですが、今回も加わります。『どうする家康』は一話限りのゲストをフィーチャーするパターンもありますが、登場人物の物語も積み重なっています。
佐久間信盛追放は築山殿事件が原因でした。保身第一の人間の末路です。織田信長も二人を死なせない解決策を望んでいたのかもしれません。それが他者の犠牲を正当化する保身第一に佐久間信盛への怒りになったのでしょう。
次回は第26回「ぶらり富士遊覧」です。武田勝頼を滅ぼした後に信長は東海道で安土に帰ります。家康の領国を通過しますが、その際に家康は手厚く接待しました。『どうする家康』の断腸の思いの築山殿事件の後では接待する気になりませんが、どのように描かれるでしょうか。
天目山の戦いなど武田勝頼滅亡はタイトルにもなりません。築山殿の構想を不誠実な形で裏切った時点で終わった人になってしまいそうです。家康を人でなしと言う勝頼が人でなしです。強そうな勝頼ともてはやされましたが、猪武者でした。人質ではあったものの、今川家で英才教育を受け、漢籍を読んでいた家康とは差が出ました。
その次の第27回が「安土城の決闘」であり、第28回が「本能寺の変」です。甲州征伐から本能寺の変まで一話を挟みます。『どうする家康』は第5回「瀬名奪還作戦」や第7回「わしの家」とオリジナリティあふれる話を入れてきました。「安土城の決闘」も、そうなるのでしょうか。
『どうする家康』第24回「築山へ集え!」交易による平和主義
『どうする家康』第23回「瀬名、覚醒」悪女の冤罪を晴らす
『どうする家康』第22回「設楽原の戦い」嫌な仕事を押し付ける
『どうする家康』第21回「長篠を救え!」見下す兵士達への痛烈な反撃
『どうする家康』第20回「岡崎クーデター」築山殿事件は虚偽告訴の冤罪か