台風19号が2019年10月12日に日本列島を襲いました。被害を受けられた皆様に謹んでお見舞い申し上げます。大変なる御心痛、御苦労があるかと存じます。お亡くなりになられた多くの方々の御冥福を衷心よりお祈り申し上げます。ご遺族の皆様に対し深くお悔やみを申し上げます。
東京都世田谷区の二子玉川は多摩川の氾濫で浸水被害を受けました。二子玉川は大型再開発(二子玉川東地区第一種市街地再開発事業、二子玉川東第二地区第一種市街地再開発事業)が行われた場所です。この再開発に対しては地域住民による反対運動が起きました。そこでは水害の激化も再開発の問題点として主張されました。
二子玉川再開発は都市計画公園予定地だった場所に高層ビルを建設する計画です。公園ならば保水力があります。それを人工地盤で覆われるならば雨水浸透力が低下します。加えて超高層マンションは地盤をかさ上げしており、周囲の雨水が堰き止められます。また、地下構造物による地下水脈の遮断で、上流側の地下水位が上昇します。
二子玉川再開発では都市計画公園予定地に高層ビルを建設する代わりに、駅から離れた場所を公園としました。しかし、その公園も地盤をかさ上げており、遊水池機能を果たせません。
これらの主張は住民が再開発の差し止めを求めた裁判(平成20年(ネ)第3210号)でも原告住民側から主張されました。裁判は請求棄却となりましたが、水害は現実化しました。住民運動の主張を振り返る価値があるでしょう。
ところが、逆に住民運動が攻撃対象とされる傾向がみられます。住民運動が堤防建設に反対したために浸水被害が起きたと。それどころか、住民団体「二子玉川の環境と安全を考える会」が多摩川氾濫後にWebサイトを削除したとの悪意あるフェイクニュースも流布されました。
事実は異なります。「二子玉川の環境と安全を考える会」のWebサイトは無料ホームページサービス「Page ON」上に開設していましたが、サービス運営者のNTTコミュニケーションズが2015年2月28日にサービスを終了し、その結果、Webサイトが消滅しました。フェイクニュースの流布者が自分の見たいものしか見ようとしない典型です。
住民運動が悪意にさらされやすい要因は、開発計画を押し付けられる立場であり、計画の存在が前提になるため、計画に対する反対という表現になることです。計画を進める側と対峙するためには計画の問題点を指摘するものになります。それが反対者は治水について考えていないように受け止められがちですが、それは短絡的です。堤防に反対することと、治水を不要と考えることは同一ではありません。計画の押し付けではなく、ゼロベースで治水について検討するならば住民運動から積極的な治水案が出ます。
たとえば川底の浚渫(掘り下げ)です。堤防は立ち退きや水辺と遮断されるなど日常生活にデメリットがあります。堤防のかさ上げは、高い水位で水を流すことになり、破堤した場合の被害は甚大になります。浚渫はSDGs(Sustainable Development Goals)のゴールにもなっている「住み続けられるまちづくり」とも両立します。住民が計画のステークホルダーになっておらず、決められた計画に賛成か反対かという形でしか反応できない状態が不幸です。