NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が2022年9月24日に第37回「オンベレブンビンバ」を放送しました。「オンベレブンビンバ」の謎タイトルに深い意味があるのではないかと議論されましたが、難しく考えすぎでした。
畠山重忠を冤罪で死に追いやったことで、北条時政の評判は失墜しました。このため、時政を無視して、尼御台(北条政子)宛の訴えが増えるようになります。元々、頼朝亡き後の将軍家の家長は頼朝の妻の政子でした。天武天皇の没後に皇后が持統天皇として即位したことと似たパターンです。
時政の権力は政子の支持あってのものです。そこを理解していないことが時政や牧の方(りく)が政子と義時に敗れた理由です。逆に自分の権力の限界を理解していたからこそ、源実朝を廃して娘婿の平賀朝雅を将軍にしようとしたと理解することもできます。
朝雅は、実子の北条朝雅を毒殺した疑惑があります。その朝雅を将軍に担ぎ上げようとすることは御目出度い行動です。牧の方は畠山が毒殺したと信じていましたが、重忠は二俣川の戦いを見事に戦うことで毒殺するような人物ではないことを示しました。牧の方が未だに畠山が毒殺犯と思っているならば見る目がありません。
毒殺は朝廷に焚きつけられたものでした。朝雅は今回、将軍に担がれることを迷惑に感じています。政範を毒殺して取って代わろうとする野心家に描いた意味がなくなります。牧の方も朝雅も朝廷に踊らされているだけです。鎌倉幕府や北条氏を混乱させる朝廷の陰謀です。
朝廷の側は慈円が後鳥羽上皇のブレーンです。慈円は『愚管抄』で保元の乱から「武者の世」になったと書いており、武士の時代になっている現実を直視していました。承久の乱では後鳥羽上皇の挙兵を諫めようとしていました。これまでの『鎌倉殿の13人』では後鳥羽上皇と一体ですが、承久の乱までにどうなるかは見どころです。
阿野時元が北条時政の側で動きます。自分の母親が乳母になっている実朝を廃する計画に加担することは不思議です。
時元は実朝暗殺後に将軍継承を主張して義時に討伐されました。時元は頼朝の弟の阿野全成の息子であり、血筋から言えば将軍を継承することは変な話ではありません。時元討伐は、義時が源氏の血筋よりも、お飾りの将軍を求めた権力欲と説明したくなるものです。しかし、『鎌倉殿の13人』では牧氏事件からの対立関係で討伐を正当化する展開も成り立つでしょう。
三浦義村は今回も裏切り者になります。『鎌倉殿の13人』は義時中心に描かれ、義時と義村は友情や信頼関係で結ばれているように見えます。それ故、比企能員にしても時政にしても義村を味方として期待すること自体が誤りです。裏切りではなく、一貫して義時の味方です。とはいえ、同時代人には裏切り者イメージがあり、「三浦の犬は友を食らう」と言われました。
義村は時政を裏切る理由を時政の案では善哉(後の公暁)の芽がなくなるからとします。義村は公暁の乳母夫です。源頼家にとっての比企能員と同じ立場です。善哉を将軍にする野心を抱いていそうです。実朝暗殺も義村を黒幕とする説があります(永井路子『炎環』)。
北条氏と三浦氏は義時や泰時の時代はNo.1とNo.2で協調関係にありました。しかし、水面下では義時と義村は暗闘を繰り返していたとする見方もあります。『鎌倉殿の13人』では腹黒い義時と腹黒い義村で暗闘しつつも当人同士は仲が良いという不思議な関係になりそうです。
『鎌倉殿の13人』第32回「災いの種」ブラックになる北条義時
『鎌倉殿の13人』第33回「修善寺」承久の乱につながる対立軸
『鎌倉殿の13人』第34回「理想の結婚」伊賀の方は悪役令嬢
『鎌倉殿の13人』第35回「苦い盃」畠山重忠の冤罪
『鎌倉殿の13人』第36回「武士の鑑」冤罪の追及にも陰謀が必要
『鎌倉殿の13人』第37回オンベレブンビンバはombre per un bimboか