NHK大河ドラマ『どうする家康』第31回「史上最大の決戦」が2023年8月13日に放送されました。小牧長久手の戦いが始まります。徳川家中は市の死に憤っており、石川数正を秀吉の戦勝祝いの使者に送ることにも反発があります。直接接点のなかった井伊直政も市の信奉者になっています。
秀吉は露骨に織田信雄を蔑ろにします。主君の息子に手の平を返す対応が通用するでしょうか。他の織田家家臣も織田信長のパワハラに苦しんでいた立場から、逆に秀吉の対応を歓迎するでしょうか。
秀吉は信雄に「己の器を知ることは大事なことでございます。できもしないことをやらされることほど辛いことはございません」と言い放ちます。これを言って良いならば家康が後に豊臣秀頼から天下を簒奪することも正当化できます。
信雄は暗君に見えます。信長は長男の信忠を跡取りとして強調するために弟の信雄や信孝と差をつけていました。本能寺の変で信忠が亡くなり、その代わりを務められる人がいませんでした。長男に一極集中させる弱さです。『鎌倉殿の13人』では石橋山の合戦で北条宗時が戦死しましたが、弟の北条義時が北条時政を支えました。
酒井忠次と石川数正は息がぴったりです。忠次と数正は家康の二大重臣であり、競争関係にあったと描かれやすいです(岩井三四二『竹千代を盗め』)。忠次が数正を悪く言い、それが後の数正出奔の一因になったとする描かれ方もあります(火坂雅志『天下 家康伝』)。
これに対して『どうする家康』では家臣同士の仲が良いです。X f/k/a TwitterやInstagramを見ると俳優同士も仲が良さそうです。これは『どうする家康』と同じ松本潤さん主演ドラマ『99.9-刑事専門弁護士』とも重なります。
99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE
歴史のリアルでは忠次と数正は競争関係にあり、足の引っ張り合いもあったとする説に説得力を感じますが、『どうする家康』は観ていて心地良いです。数正の出奔がどのような背景で描かれるか注目します。
家康は井伊直政に武田の兵を預けます。その理由を「人たらし」だからとします。ドラマでは女たらしの描写しかなかったような気がしますが、三河武士の中に遠江出身者が馴染んでいるだけで十分に人たらしと言えるでしょう。直政は『おんな城主直虎』でも猪突猛進タイプに描かれますが、外交もできる貴重な家臣でした。
家康は大義名分で動きます。織田家との同盟を強調します。家康は自分が信長を倒そうとしたことを忘れています。大義名分が後に家康の足枷になります。関ヶ原の合戦や大坂の陣ではなりふり構わない強引なところがありました。卑怯な言いがかりとなった方広寺鐘銘事件は露骨です。これは大義名分に拘束された苦労を踏まえて変わったためでしょうか。
方広寺鐘銘事件は卑怯な言いがかり
家康は秀吉の欲望に際限のないことを見抜いています。これは唐入り(朝鮮出兵)で現実化しました秀吉に屈すれば領地を奪われる危険があるとも予想します。これも関東移封で現実化しました。家康が戦のない世にするという瀬名の構想を信奉しているならば、秀吉の天下に協力せずに戦をすることは矛盾にも見えますが、秀吉の危険性を理解しているための決意になります。
小牧長久手の戦いはタイトル「史上最大の決戦」に相応しい壮大な構想がありました。越中の佐々成正、四国の長宗我部元親、紀州の雑賀・根来衆らと秀吉包囲網を構築しました。しかし、遠隔地の包囲網は相互の連絡がうまくいかず、頭で考えるほど機能しません。過去の信長包囲網も失敗しました。『どうする家康』では第三次信長包囲網が瀬名の構想と重なり、徳川家も関わっていましたが、内側から崩壊しました。
後の関ヶ原の合戦では石田三成と上杉景勝が家康を包囲する側になりました。これも包囲する側が効果的に連携できず、家康が包囲を突き崩して天下人になりました。
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