NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は2022年7月3日に第26回「悲しむ前に」を放送しました。頼朝が危篤になります。北条政子以外の人物は皆、頼朝の死を前提として行動を始めます。北条政子は女傑のイメージがありましたが、皆がポスト頼朝を考える中で一人だけ頼朝のことを考えています。最も人間的なキャラクターになっています。
政子の最大の見せ場は承久の乱での御家人への演説です。朝廷の権威を真っ向から否定して自分達の権利を守るために戦うと演説することは当時の政治常識からすると非常識です。それ故に政子には女傑のイメージがあります。しかし、固定観念から脱却すると、自分達に何の恩恵も与えてくれず、実際は力もない朝廷を有り難がる意味がないということが常識的な発想になります。常識人らしさが出るのでしょうか。
常識人としての北条政子は第21回「仏の眼差し」(2022年5月29日)にも見られます。ここで政子は「わざと言っているのなら人が悪いし、わざとでないなら気遣いがなさすぎます」と言います。
現代日本では差別発言やパワハラ発言に対して批判されるほど悪い意図を持っていなかったという卑怯な言い訳がなされます。吉本興業ホールディングス社長はパワハラ発言を冗談のつもり、場を和ませようとしたと言い訳しました。
東急ハンズはゲリラ豪雨の同性愛者侮辱ツイートに対して「差別的な意図は念頭になく」と言い訳しました。
政子の台詞は、これらの言い訳をぶった切ることができるものです。
北条義時は源頼家を次の鎌倉殿に擁立しようとします。これに対して、比企能員の力が増すことを嫌った牧の方(りく)は、北条時政をたきつけ、阿野全成を擁立しようとします。これまでは悪辣な源頼朝に振り回される北条義時でしたが、これからは時政らに振り回されるのでしょうか。
全成は頼朝の弟達の中で頼朝に殺されず、頼朝より長く生きました。それは野心を見せなかったためです。鎌倉殿への野心を見せたことで、どうなるでしょうか。
全成は鎌倉殿になれなくても、妻の実衣が千幡(源実朝)の乳母というカードをまだ持っています。『吾妻鏡』では阿波局(実衣)の告げ口を梶原景時の変の発火点としています。実衣の無邪気なお喋りと描くのか、全成・実衣夫妻の政治的陰謀と描くのか興味深いです。
頼朝が落馬したことは武家の棟梁にとって不名誉な話です。江間太郎頼時(金剛)は気絶して落馬したと推理します。演じる坂口健太郎さんは『イノセンス 冤罪弁護士』で冤罪を明らかにする弁護士を演じました。それと重なる洞察力です。
『鎌倉殿の13人』第23回「狩りと獲物」曾我兄弟の仇討ち
『鎌倉殿の13人』第24回「変わらぬ人」範頼と大姫の悲劇
『鎌倉殿の13人』第25回「天が望んだ男」病死か暗殺か