先日、台湾の代表的な仮想通貨交換業者であるMaiCoinが、台北に実店舗をオープンしたということで記事にしました。
この記事で少し触れましたが、この実店舗にはミートアップなどを開催できるスペースがあるということで、実際にいろいろなイベントがおこなわれているようです。
今回は、ここで開催されたイベントのなかで興味深いトピックが話題になっていましたので、少し記事にしておきたいと思います。
・台北市長がMaiCoinに期待⁉︎
・セキュリティトークンとしての排出権トークン?
・排出権のトークン化ってどうでしょう?
台湾の大手紙「中國時報」のニュースサイトが2019年8月21日に掲載した記事によると、MaiCoinが台北市長の柯文哲さんと台北市資訊局(情報局)局長の呂新科さんを招いたイベントのなかで、MaiCoinの創業者でCEOの劉世偉さんが二酸化炭素の排出権をトークン化する取り組みについて言及したそうです。
MaiCoinが打ち出した「排出権トークン化(碳權代幣化)」の構想に対して、台北市長の柯文哲さんは以下のように反応したそうです。
世界的な温暖化と気候変動の課題に対して、台北市は都市の持続的な発展を実現するために全体的な計画を通じてスマートプロジェクトの発展を導入することで、台北市を低炭素型の住みやすい都市としていくことを望んでいます。
(面對全球暖化及氣候變遷議題,台北市政府為實現城市永續發展,希望透過整體規劃,導入智慧項目發展,將台北市打造成低碳且宜居的城市。)
以下の記事でも触れましたが、台北市長2期目を務める柯文哲さんは、これまでに「スマートシティ(智慧城市)」の実現に向けた動きを積極的に展開しています。
台湾では2020年1月に総統選挙を控えていますが、柯文哲さんは与党・民進党の現職である蔡英文さんと、野党・国民党の候補者である高雄市長の韓國瑜さんのあいだに割って入る「第三の候補者」としての途を探っていると言われています。
この記事で報じられている柯文哲さんの新党結成、党首就任の動きは総統選挙立候補への布石とも言われていますが、今のところ、立候補については明言していません。
ただ、いずれにせよ、柯文哲さんの動きが注目されるトピックのひとつとして、スマートシティの実現やブロックチェーン・仮想通貨の導入といったことも含まれているということから、台湾のこうしたトピックに対する関心の高さを感じることができますね。
そんな政治的な思惑も見え隠れするような状況のなかで公表された「排出権トークン化」の取り組みですが、この動きは台湾の行政上の動向も踏まえたものになっています。
というのも、台湾の経済紙「工商時報」が以下のとおり報じていますが、MaiCoinによる「排出権トークン化」の取り組みは今のところ、「排出権STO(碳權STO)」という形で展開されようとしています。
台湾のSTO(Security Token Offering)をめぐる状況、およびMaiCoinのSTOへの対応については、以下の記事に書き留めました。
この記事のなかでは、台湾の金融行政を管轄する金融監督管理委員会(金管會)がSTOに関するルールを準備中と書きましたが、2019年6月27日に金管會はSTOをめぐる基本的な枠組みを公表しました。
このなかではっきりと、セキュリティトークンは「有価証券とみなされる(視為有價證券)」と言及されていて、既存の証券法の枠組みに位置づけられることが示されています。
実際に運用に向けた具体的な枠組みが整備されるのは早くて今年10月ごろだと言われていますが、MaiCoinによる「排出権トークン化」の取り組みは、こうした台湾でのトークンをめぐる環境整備を受けて展開されていることがわかりますね。
さて、MaiCoinによる「排出権トークン化」は台北市長も期待を寄せる取り組みになっているようですが…
実際の効果としてはどうでしょうか?
そもそも、実現の可能性はあるのでしょうか?
たとえば、ALISでエネルギー問題といえばMALISさんの記事が真っ先に思い浮かびますが、二酸化炭素の削減についても以下のような記事をまとめていらっしゃいます。
MALISさんの記事からは、二酸化炭素の排出が規制との関係で「権利」として売買される背景とその課題について知ることができます。
こうした背景のもとでブロックチェーン・仮想通貨の可能性が世界各地で模索されていて、MaiCoinによる取り組みもこうした世界的な動きにつながるものとして位置づけられていることがうかがえます。
ただ、排出権を売買するという枠組みそのものの実際的な効果や発展性に対する疑問や、あるいは以下の「中央通訊社」の記事で言及されているように、実は「MaiCoinが発行しようとしている排出権STOは、必ずしも金管會による有価証券の定義に適合しているとはいえない(MaiCoin擬發行的碳權STO,不一定符合金管會對有價證券的定義)」といった金融行政との適合性という課題があります。
先に書きましたように、台湾でSTOに関する具体的な枠組みが整備されるのは早くて2019年10月ということです。
以上のような課題があるなか、10月までにこうした「排出権トークン化」の構想が本当に実現されるかどうかはまだわかりません。
とはいえ、こうした取り組みが実現すれば、台湾のブロックチェーンや仮想通貨をめぐる状況の新たな展開に繋がるだけではなく、投資環境やエネルギー政策、都市政策などに新たな方向性を示すことになるかなと感じています。
こうしたことも意識しながら、これからの動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!