久しぶりにALISを逍遥していましたら、sakkyさんの記事が目に留まりました。
アイキャッチに、ピタッと焦点が合いました。
僕が初めて太宰治の『饗応夫人』を読んだのは、高校生のころでした。
僕は中学・高校と吹奏楽部にいたのですが、高校時代の吹奏楽部の友人が太宰治の短編集を貸してくれたのです。
というのも、僕らはこのころ、『饗応夫人』を読まなければならない必要に迫られていたんです。
全国の吹奏楽部でそれぞれ演奏に勤しんでいる部員たちのほとんどは、毎年夏から秋にかけて開催される「全日本吹奏楽コンクール」を中心に、一年間の活動が回っています。
このコンクールには、毎年、「課題曲」と呼ばれるコンクール専用曲が設定されます。
僕がやっていたころは4曲、現在は5曲の課題曲があり、このなかから必ず1曲選んで演奏することがコンクールでは求められます。
僕が高校生だった1994年のコンクール課題曲は、以下の4曲でした。
Ⅰ.ベリーを摘んだらダンスにしよう(間宮芳生)
Ⅱ.パルス・モーションⅡ(川崎美保)
Ⅲ.饗応夫人:太宰治作『饗応夫人』のための音楽(田村文生)
Ⅳ.雲のコラージュ(櫛田胅之扶)
例年、この4曲のうち、ⅡとⅣはオーソドックスで難易度もまあまあ、Ⅰがやや難易度高め、そして…
というのが定番でした。
ということで、毎年「マジか、これ…」という課題曲が必ずあるのですが、そのなかでも圧倒的にぶっ飛んでいたのが、この「饗応夫人」でした。
この課題曲、ぜひ聴いていただきたいのですが、公式の音源が公開されていないようなのでリンクが貼れない…
以下のページで冒頭数十秒が視聴できますが、「饗応夫人 課題曲」と検索していただければフルバージョンが出てきます。
毎年春に、その年のコンクールでどの課題曲を演奏するのかを決めるために、すべての課題曲の楽譜と模範演奏を取り寄せるのですが、「饗応夫人」の楽譜を見たときは全員…
となりました。
実際に聴いていただくとわかるのですが、とりあえず拍子がコロコロと変わります。
いわゆる4拍子(4分の4拍子)や3拍子(4分の3拍子)などのわかりやすい形はほぼ出てこなかったように思います。
確か、出だしからいきなり、「16分の何?」みたいな、訳の分からない表記があったような気がします。
メロディーラインも複雑、というよりずっと変則的な形で進行していきますし、ハーモニーのバランスや崩し方も難しい…
とはいえ、東京佼成ウインドオーケストラの模範演奏を聴くと、上手くバランスが取れていて迫力を感じるし、上手く演奏できればインパクトはありそう…
結局、僕たちは検討の結果、無難なⅠを選びました。
コンクールでは意外と「饗応夫人」の演奏に挑んだ学校が少なくありませんでしたが、ほとんどの演奏が惨憺たるものになっていたなぁ…
そんなこともあって、僕にとっての『饗応夫人』はこの曲とともにイメージされる作品となっています。
そのイメージは、一言でまとめると「人間の内にあるどうしようもなさ」を感じると言えるでしょうか。
作品に出てくる人物は、夫人だけではなく全員が、自分のことを自分ではコントロールできなくなっているように感じます。
それはある特定の時代や社会のなかで生きていかざるを得ない、社会的な生き物である人間の「宿命」なのかもしれません。
自分でさえも自分のものではない。
にもかかわらず、自分の身に降りかかる苦しさは、自分が背負わなければならない。
その苦悩や困難、どうしようもない「滅茶苦茶」なありさまを夫人だけではなく、ここに登場する全員が抱えている、というように感じました。
課題曲「饗応夫人」は、その「滅茶苦茶」なありさまを表現しているとも思えますし、その「滅茶苦茶」さを抱えながら、人は生きていかなければならないのかもしれないな…と思っています。
という感じで、最後にちょっと感想文っぽいことを書いてみました。
吹奏楽やってた人の感想とかも読んでみたいなぁ…
sakkyさん、記事を書く素敵なきっかけをありがとうございました🙇♂️