(台湾・東区の「新光三越」前のイルミネーション。冬のイルミ、綺麗ですよ)
世界各国でブロックチェーンをはじめとする新たな技術の開発を進めているスタートアップの多くは、世界を舞台とした事業展開を想定、もしくはすでに展開していますね。
台湾のスタートアップも海外展開を考えているところが多くありますし、海外発のスタートアップが台湾で事業展開をおこなっているところもあるようです。
今回はそうした動きのなかで、台湾のIoTデバイスを開発しているスタートアップがブロックチェーンの開発企業と提携して、日本での事業展開を進めているということで、少し書き留めておきたいと思います。
・NextDriveがBiiLabsと提携⁉︎
・NextDriveってどんなスタートアップ?
・NextDriveが日本市場で見据えるのは?
・エネルギー産業におけるIoT×ブロックチェーンの可能性
台湾のスタートアップの動向を取り上げ続けている「Meet」が2018年10月11日に、「NextDrive(聯齊科技)」のCEOである顏哲淵さんのインタビュー記事を掲載しました。
記事は、以下のリード文から始まっています。
2018年6月底,IoT新創NextDrive聯齊科技宣布與區塊鏈新創BiiLabs合作,將投入研發能源區塊鏈應用,目標打造亞洲第一個即時綠能交易平台。
(2018年6月末、IoTのスタートアップであるNextDrive聯齊科技はブロックチェーンのスタートアップBiiLabsと提携し、エネルギーブロックチェーンアプリの開発を進め、アジアで初めてのリアルタイムグリーンエネルギー取引プラットフォームの構築を目標とすることを公表した)
この提携については、NextDriveの公式ウェブサイトで2018年7月2日にすでに公表されていて、以下のような課題を解決するための提携だと説明されています。
NextDrive透過與BiiLabs的攜手合作將IOTA與物聯網結合後,預計打造一個以區塊鏈為基礎的能源交易平台,解決過去能源交易的先天困境,更解決了過去區塊鏈無法進行即時「小額交易」的問題。
(NextDriveはBiiLabsとの提携を通じてIOTAとIoTを結びつけてから、ブロックチェーンを基礎としたエネルギー取引プラットフォームの構築を目指す。これまでのエネルギー取引が持つ本質的なジレンマを解決し、これまでのブロックチェーンでは難しかったリアルタイムな「少額取引」の問題を解決する。)
BiiLabsについては以下の記事に少し書き留めましたが、IOTAの技術をベースとしたDLT(DistributedLedgerTechnology、分散式帳本技術)の技術開発をおこなっているスタートアップです。
IOTAが基盤技術としているのは「ブロックチェーンに代わる」と言われているDAG(Directed Acyclic Graph、有向非循環グラフ)なので、正確にはブロックチェーンというわけではありませんが、一般的には大きく括って「ブロックチェーン技術」と呼ばれていますね。
Meetのインタビュー記事には、今回の提携によってアジアを視野に入れていると書かれていましたが、記事の文面は以下のように続いています。
兩間台灣新創聯手,出擊世界第三大經濟體日本的能源市場。
(ふたつの台湾のスタートアップによる提携は、世界で第3位の経済国である日本のエネルギー市場に打って出る)
今回の提携が日本のエネルギー市場への進出を標的にしていることがはっきりと示されていますが、その背景として、NextDriveが既に日本市場で事業を展開していることを挙げることができます。
NextDriveの公式ウェブサイトには日本語サイトも用意されています。
しかも、よく見られるような、中国語または英語サイトをそのまま日本語訳したものではなくて、サイトデザインから掲載されている情報まで、すべて中国語サイトとはまったく違う内容のウェブサイトが公開されています。
日本語サイトの「会社紹介」ページによると、NextDriveは2013年末に台湾で創立され、2017年1月に日本法人を開設、事業内容は以下の3点が挙げられています。
IoT分野における無線ネットワーク電子機器及びセンサーデバイス製品開発
IoTサービスに関するソリューションの開発、販売及び提供
HEMSソリューションの開発、販売及び提供
NextDriveの主力商品として公式サイトに挙げられているのは、2017年に独自開発したというHEMSゲートウェイ機器である「Cube」と、Cube専用のエネルギー管理アプリ「ECOGENIE」です。
HEMSとは「Home Energy Management System」の略称ということなので、「Cube」と「ECOGENIE」は各家庭におけるエネルギー消費管理、つまりエネルギーの「見える化」を実現するためのデバイスとして機能する商品ということです。
「Cube」はビックカメラなどの家電量販店で販売されていると同時に、中部電力が2018年10月から実証実験を開始した一般家庭向けIoTサービスの「おうちコネクト」の基本デバイスとして採用されているということで、既に事業実績を積み重ねているようですね。
ちなみに、上に挙げた「会社紹介」によれば、Cubeは2017年と2018年にグッドデザイン賞を受賞しているそうですよ。
冒頭に挙げたMeetに掲載されている顏哲淵さんのインタビュー記事には、日本の電力産業をめぐる規制緩和に関する説明が付されています。
特に、2016年の電力小売の自由化、2020年に予定されている発送電完全分離、2023年までに8千万台ある電力メーターのスマート化計画などが言及されています。
顏哲淵さんはこうした日本の電力市場の動向を想定し、「能源市場瞬息萬變,也許5年後聯齊就不在(エネルギー市場はあっという間に変化するので、5年後にはNextDriveは無くなっているかもしれませんね)」と言いつつ、「我期盼聯齊能當所有能源服務公司最好 Partner!(NextDriveがあらゆるエネルギー関連企業のベストパートナーになることを願っています)」と語ったようです。
さらに、日本政府が2040年にはガソリン車を全面的に廃止し、電気自動車に代えていくという計画を持っているということに触れ、電気自動車の普及によって、家庭におけるエネルギー管理および売電・買電の需要はさらに高まると考えているとのことです。
既に着々と、日本市場で事業展開を進めているなかで、今回のBiiLabsとの提携は、こうした5年後、およびその先を見据えたものだということがうかがえますね。
日本における「電力×ブロックチェーン」の可能性と課題については、エネルギーの専門家、MALISさんの以下の記事から始まるシリーズをご参照ください。(僕もMALISさんの記事で勉強しています!)
MALISさんの記事に触れられている電力のデジタル化が、紆余曲折を経ながらも進む日本市場のなかで、そこに焦点を絞って事業展開を着々と進めているNextDriveのスピード感には目を見張るものがあります。
実際に、Meetのインタビュー記事で顏哲淵さんは、今回のBiiLabsとの提携には以下のような強みがあると語ったそうです。
其實許多人或許會認為日本這個市場難以攻打,不過其實台灣新創不需要太看扁自己,我們有兩大優勢:人才優勢、速度優勢。
(実際のところ、多くの人が日本の市場に攻め込むのは難しいと考えているかもしれませんが、実は台湾のスタートアップは自分のことに固執しすぎる必要はありません。私たちにはふたつの強みがあります。人材とスピードです)
原文では「人才優勢、速度優勢」の部分が太字になっているので、この点に大きな強みを感じていることが伝わってきますね。
日本の電力市場の変化のなかで、NextDriveの事業がどのように展開されていくのかはもちろんわかりませんが、少なくとも僕自身は、今回のこのニュースに触れて、HEMS整備を進めたい…と感じました。
電力市場の動きも含めて、これからの動向をコツコツと追いかけていきたいと思います!