ブロックチェーンが「分散型台帳技術」と呼ばれるように、その記録における特性を活かした分野への応用は世界中で試みられています。
仮想通貨はその最たるものですが、「通貨」と呼びうるものが実現できるほどに「信頼性」を高めることができる技術ですから、「信頼」の担保を要する分野への導入・応用の動きが急速に進んでいますよね。
金融や医療分野への導入はもちろんですが、そのあいだに位置づく「保険」分野へのブロックチェーンの導入もさまざまな形で研究が進んでいるようです。
ブロックチェーンに強い関心を寄せているだけではなく、官民ともに多大なリソースを注いでいる中国でも、「保険×ブロックチェーン」に新たな動きが生まれたようですので、少し書き留めておきたいと思います。
(文中の日本語訳は、ざっくりとした粗訳です。参考までに止めてご覧ください(^^;)
・「再保险区块链(RIC)白皮书」が公表されました!
・ホワイトペーパー作成を主導したのは…
・ホワイトペーパーの内容は?
・取引プラットフォームの構築も!?
新華社系の経済・金融紙「中国证券报」のニュースサイト「中证网」に掲載された記事によると、上海で2018年6月29日に『再保险区块链白皮书(Reinsurance Blockchain Whitepaper)』の公表記者会見が開催され、ホワイトペーパーが公開されたということです。
「再保険(再保险)」というのは「保険会社の保険」ともいわれるように、保険会社が保険金を支払う際のリスク管理、たとえば一度に巨額の保険金を支払う必要が生じた場合でも対応できるようなシステムのことをいいます。
今回公開されたホワイトペーパーは、この再保険を取り扱っている保険会社が中心となって作成されたものですが、記事に挙げられているメンバーは以下のとおりで、とても興味深いメンバーが名を連ねています。
中再集团(中国再保险(集团)股份有限公司)
汉诺威再保险(ドイツ・ハノーバー再保険)
通用再保险(ドイツ・ジェネラル再保険)
众安保险(衆安保険)
众安科技(衆安科技)
英特尔(インテル)
中国とドイツの再保険会社が前面に出ると同時に、技術的な側面は中国の众安科技とインテル(!)が担っているようですね。
このなかでホワイトペーパーの冒頭に名前が出てくるのが、「中再集团」と「众安科技」という中国企業です。
「中再集团(中再グループ)」は公式ウェブサイトによると、中国財政部の指導のもとで結成された企業で、1949年10月に設立された「中国人民保险公司」を前身とし、現在は傘下に5つの保険会社を要するグループ企業となっているようです。
事業規模は再保険会社としてはアジア最大、全世界でも第8位に位置すると書かれています。また、中国国内では唯一の中国発祥の再保険会社ということで、いわゆる業界のリーディングカンパニーであることがうかがえます。
今回のホワイトペーパーは、中国の再保険市場におけるリーディングカンパニーがブロックチェーンの導入を宣言したということで大きな注目を集めているわけですが、同時に、その技術的な側面を担っているのが「众安科技」であるということもまた、注目ポイントのひとつだと思います。
「众安科技(衆安科技)」は、公式ウェブサイトによれば、2016年11月に創設されていますが、その親会社が「众安保险(衆安保険)」です。
众安保险の公式ウェブサイトによれば、众安科技は众安保险が100%出資して創設された完全子会社とのことで、創設の目的は、「致力于输出自身技术、推动保险业信息化升级、成为内外部创新的孵化器(自らの技術を輸出し、保険業の情報化の向上を推し進め、内外のイノベーションのインキュベーターとなることに尽力する)」ことにあるようです。
众安保险自体が、2013年11月に中国で初めてのネット保険専門企業として創立されたということもあり、中国の保険業界における技術革新に大きな役割を担ってきたようです。(「众安保险」については、少し以前の記事ですが、ニッセイ基礎研究所のウェブサイトに日本語で読める紹介記事があります)
そうした技術革新を担ってきた企業のもとで、众安科技は特に「一家专注于区块链、人工智能、大数据、云计算等前沿技术研究的金融科技类公司(ブロックチェーン、AI、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの先進的な技術研究を専門におこなうフィンテック関連企業)」だと自己規定がなされています。
中国における「保険×ブロックチェーン」、「保険×フィンテック」をより一層推進していくために、世界的な企業とも提携したうえで公表されたホワイトペーパーであることが伝わってきますね。
公表されたホワイトペーパーの全文は、中国のブロックチェーン関連のデータベース「链塔智库」に掲載されています。(公開されているものを探すのに苦労しました…(^^;)
ホワイトペーパーによれば、まず、再保険の仕組みにブロックチェーンを導入する背景として、これまでの再保険には2つのリスク、「情報の不均衡によるモラルリスク」と「情報化の遅れにともなう作業リスク」が大きな課題として存在していると指摘されています。
こうしたリスクに対して、ブロックチェーンを導入することによって、前者に対してはあらゆる情報の共有化が図られることによって、保険に関する情報のブラックボックス化を避け、透明度を上げることができるとしています。
さらに後者に対しては、ブロックチェーン上に構築されたスマートコントラクトを実現することによって、時間的・金銭的・人的コストを大幅に下げることが期待できるとしています。
具体的な設計目標としては、以下の3点が挙げられています。
1.以去中心化的方式实现再保险各机构间点对点交易。(非中央集権型の方法によって、再保険の各セクション間のP2P取引を実現する)
2.采用智能合约实现再保险保单的自动对账清算结算。(スマートコントラクトを採用することで、再保険の保険証書の自動チェッキング・決済・精算を実現する)
3.利用区块链上数据不可纂改、数据可信、交易可追溯的特性,提升再保险交易的可信安全,实现降本增效,加强系统交易监管审计。(ブロックチェーンの非改竄性、データの信頼性、取引の追跡可能性といった特性を利用して、再保険取引の信用安全を向上させ、コスト削減・対費用効果の向上を実現し、システム上の取引の管理を強化する)
以下、こうした目標の具体的な技術的裏付けについての記述が続きますが、このあたりはまだ読み切れていません…これからもコツコツと読み進めていきます。
中证网に掲載された記事によれば、今回のホワイトペーパーの公表を機として、協力企業間で「再保险区块链公司间交易平台(再保険ブロックチェーン企業間取引プラットフォーム)」を構築していくことが示されました。
こうしたプラットフォーム構想はホワイトペーパーのなかにも記載されていることで、今回の取り組みを実現していくための基盤になるもののようです。
その設計理念を、「共通したブロックチェーン上で、お互いに信任しあいながら、多くの企業が関わって、すべての行程を自動化していく」といったようなニュアンスで、「一区、双块、多链、全程」というスローガンで表現しています。
このあたりは、中国の取り組みを見ていていつも感心するところですが、技術的な裏付けを持ったサービスを展開していくときに、必ずその理念を一般の人々にもイメージしやすい形で提示することにも力を尽くしている感じがします。
しかも、今回の取り組みには中国のフロントランナーだけではなく、世界的な企業も参画し、グローバルな市場を視野に入れたものとなっています。
このホワイトペーパーに示された内容が、プラットフォームを通じてどのように実現していくのか…今後の動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!
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