中国がブロックチェーンに対して今後どのような展開を考えているかということは、台湾や香港に限らず、世界中が注目するところだと思います。
それは政府機関や、あるいは企業のトップなどからアナウンスされる場合もあれば、実際の動きとして見えてくることもあるかと思います。
もちろん、中国に限らず、表に出てくる情報やコメントはいろんな思惑が絡まって発せられるものですから、必ずしも言葉面だけで真意を理解できるわけではありませんが、多様な情報をひとつひとつキャッチしながら中身を読み解いていくことで、見えてくることもまたあるかと思います。
今日は、台湾の情報を追いかけていたら、中国で開催されたブロックチェーンに関するフォーラムの記事が目に付いたので、少し書き留めておきたいと思います。(文中の日本語訳はざっくりとした粗訳ですので、参考までに(^^;)
・「中国区块链技术创新发展论坛」の開催
・「数字中国(DigitalChina)」の構築を目指す?
・多様な産業にブロックチェーンを!
・国家戦略としてのブロックチェーン
人民日報のニュースサイト「人民网」をはじめ、中国の複数サイトが報じたところによると、2018年6月2日に北京の人民大会堂で、「中国区块链技术创新发展论坛(中国ブロックチェーンテックイノベーションディベロップメントフォーラム)」が開催されたとのことです。
(内容としては「人民网」の記事がベースになるかなと思います。また、会場の様子は「中央人民广播电台」の記事が参考になります)
主催は「华夏产业经济研究院」と「北京民营科技促进会」ですが、前者の華夏産業経済研究院の公式ウェブサイトによると、この研究院は後者の北京民営科技促進会の下部組織に属するNPO(非营利组织)で、政府の委託を受けながら、産業・経済に関する調査をおこなう団体のようです。
他方、北京民営科技促進会は公式ウェブサイトによると、科学技術系の民営企業および企業家による自主組織(自律性组织)として結成された団体ということです。ウェブサイトには中国全土における多彩な活動が報告されていて、民営企業の人々のコミュニティの場を提供しているようです。
中国の経済系ニュースサイト「和讯网」が伝えた記事には、全人大の常務委員会副委員長の蒋正华(蒋正華)さんのスピーチの一部が掲載されています。
このスピーチのなかで、蒋正華さんが「电子货币发行的前景我抱很大怀疑(電子通貨が示している状況は、私に大きな疑いを抱かせる)」と語る一方で、「区块链技术是好的,需要推广和发展。(ブロックチェーンは素晴らしく、推進と発展が求められている)」と語っていることは注目されます。
中国政府の方針として、仮想通貨とブロックチェーンを切り分けて捉える考え方が明確に示されているといえますね。
上に挙げた中央人民广播电台の記事によれば、今回のフォーラムには「探讨区块链技术创新推进数字中国建设(ブロックチェーンテックイノベーションを検討し、デジタルチャイナの建設を推進する)」というスローガンが掲げられています。
「数字中国(DigitaChina)」というのは、習近平さんが福建在職時から打ち出していたIT振興方針を示すスローガンですね。
今の中国の方針を示すキーワードとしては大切だと思うのですが、日本語サイトを検索してもあまりひっかかってこないような…僕の検索技術がまだまだなのでしょうか(^^;
(奥悉太さんあたりはちゃんとフォローされていそうな…)
フォーラムの場でも北京民営科技促進会会長の王治国さんが、以下のように述べています。
数字中国战略是国家战略,数字产业化和产业数字化是中国供给侧结构改革发展的新动力,技术创新是经济发展的源动力。
(DigitalChina戦略は国家戦略、デジタル技術の産業化と産業のデジタル化は中国のサプライストラクチャー改革発展の新たなムーブメントであり、テックイノベーションは経済発展の原動力である)
この「数字中国」を実現するための大きな力になり得るものとしてブロックチェーンが位置づけられている…ということは、国家戦略としてブロックチェーンの推進が展開されているということが、もう自明の事実として公の場で語られているということが注目されますね。
人民网の記事によれば、出席者のスピーチのうち、中国銀行元総裁の李礼辉(李礼輝)さんは金融における信用保証におけるブロックチェーンの重要性を説き、ブロックチェーンの国家標準化の動きをスピーディにおこなうよう求めています。
また、中国科学院自動化研究所の王飞跃(王飛躍)さんは、ブロックチェーンが金融取引の基礎技術として、これまでの中央集権的システムの弱点であった、高コスト、低効率、安全性の問題などを解決する手段になりうると指摘しています。
加えて、華夏産業経済研究院の副院長で、TOS基金会のCTOである陶海军(陶海軍)さんはインタビューに応える形で、IoT(物联网)におけるブロックチェーンの優位性について答えていて、TOS基金会が開発した「SDAG」によるデータストレージやトランザクションコストの問題を解決することができると説明しています。
TOS(ThingsOperatingSystem)基金会は、IoTにブロックチェーン(正確にはDAG)を導入することによって、上記に挙げた問題を解決することを目指して技術開発をしているNPOです。
中国語では仮想通貨に関する情報を発信している「BTC123」にCEOの吴相庆(呉相慶)さん、CTOの陶海軍さんのインタビュー記事が、日本語では「coingrape」の記事が参考になります。
フォーラムで議論されていることは、記事中に挙げられている具体的な意見を見る限りはそれほど目新しいことは示されていなかったかもしれません。ある意味では、オーソドックスな議論が行われていたのかなと想像することができます。
ただ、このフォーラムおよびここでの議論が、「数字中国」という国家戦略のなかに位置づけられて展開されているものだということは注目すべき点かなと思います。
新しい技術が発展していくかどうかということは、もちろん民間の活力のなかで具体的なサービスが生み出されていくことは欠かせません。
そのうえで、そうした環境をいかに整え、活力を生み出していくかということもまた大切な側面だろうと思います。それを「国家戦略」という形で促していくことは、スピード感を持った技術発展の大きな力になり得るのかなと感じます。
中国の動きは多彩かつ多様なので、すべてをフォローすることは容易ではありませんが、ひとつひとつの情報の「深さ」を測りつつ、コツコツと掴まえていきたいと思います!
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