2019年11月24日に行われた香港の区議会議員選挙は、現体制派の「建制派」の大敗・対抗勢力の「民主派」の大勝という形で決着しましたね。
選挙前には、反対運動と警察との衝突が過激化したことにより、選挙が無事に実施されるかどうかという懸念が伝えられていましたが、投票の2日前から衝突が沈静化し、投票は支障なく実施されたようです。
今回の選挙は日本でも注目されていましたので、すでに様々な報道が出ています。
ですので特に目新しいことは書けませんが、現地の報道を参照しつつ、今後の動向も視野に入れながら少し書き留めておきたいと思います。
今回の区議会議員選挙の結果については、香港の行政機関である選挙管理委員会が開設した特設ページで公表されています。
今回注目された投票率については、有権者数413万2,977人のうち、294万3,842人が投票し、最終投票率は71.23%となりました。
前回2015年選挙の投票率は47.01%(有権者数312万1,238人、投票者数146万7,229人)ですから、投票率としては約1.5倍、投票者数はほぼ倍増という結果になりました。
選挙結果についても特設ページにはまとめられていますが、各選挙区の候補者の得票数がズラッと挙げられているだけですので、公表された正確な数字が知りたい方はご覧いただければと思います。
この数値を基に、香港の大衆的なメディアである「蘋果日報」が以下のページで選挙結果をわかりやすくまとめています。
このページによれば、各勢力の得票数と得票率は、民主派が167万7,471票・57.22%に対し、建制派が123万5,226票・42.13%でした。
得票数の割合は民主派:建制派=6:4となりましたが、獲得議席数は民主派が389議席、建制派が59議席となり、ほぼ9:1の割合となりました。
このあたりは、小選挙区制で実施される区議会議員選挙の特質がそのまま出ていますね。
18ある選挙区のうち、離島区を除く17の選挙区で民主派が過半数以上の議席を獲得しましたので、民主派の「完勝」と言えるだろうと思います。
今回の区議会選挙の注目点について、以下の記事で「直近の「民意」が示されること」にあると書きました。
この記事で少し触れましたが、香港の区議会は政治的な権限をほとんど持っていません。
ですので、今回の選挙を通じて香港の人々の直近の「民意」が示されたと言っても、そのことが直接、香港の政治状況に結びつく、政治状況が大きく変わるということはほとんどありません。
ただ、今回の選挙で投票をした人々がどのような意図を持って投票したのかということを見てみると、今の香港の状況にどのような影響を与えることになるのかが見えてくるかもしれません。
香港の調査機関である「香港研究協会」が定期的におこなっている区議会議員選挙に関する市民アンケートによれば、直近の11月11日から17日に実施した調査の中で、「区議会議員を選ぶときに、もっとも考慮する要素は何か?」という質問に対し、45%の人々が候補者の「政党・政治的立場」をもっとも考えると答えたそうです。
この結果について、香港研究協会は「修正案への反対運動が始まってから実施される初めての香港全体に関わる選挙(修例風波發生後的首次全港性選舉)」であることが影響していると指摘しています。
なお、この「香港研究協会」は関係者の立場が建制派の人々と近いのではないかと言われています。
確かに、事前の議席予想ではやや建制派に有利な観測を出していたこともありますが、実際のアンケート調査に基づく以上のような見解は、世論調査に関するデータとして注目に値すると思います。
この点を今回の選挙結果と合わせて考えると、有権者の多くは民主派の候補者を「民主派の候補者である」ということを明確に意識して票を投じたということが言えそうです。
もちろん、その逆である建制派の候補者に票を投じた人々も「建制派の候補者である」と意識して投票したと言えるのですが、その結果が「民主派の過半数越え」に至ったことの意味は大きいと思います。
なぜなら今回の選挙結果によって、香港の多数派の「民意」は中国をバックにもつ勢力に「NO」を突きつけるものであったことが明白になったからです。
今回の選挙結果で示されたこの「民意」が今後も維持されれば、香港の立法機関である立法会議員の選挙などにおいても、今回の結果が「再現」されるかもしれません。
そうなったときに、こうした「民意」の存在は、中国はもちろんアメリカをはじめとする国際社会が動くうえで重要な判断材料となるはずです。
実際には、立法会選挙や行政のトップである行政長官選挙は、こうした「民意」がなかなか反映されないような制度になっているので、区議会選挙の「再現」は難しいだろうと思います。
ただ、「一国二制度」の現行制度の枠内において、このような「民意」が結果として示されたことは1997年以降初めてのことですので、そのインパクトは大きいものと感じます。
今回の選挙結果を受けて、林鄭月娥行政長官は選挙結果を尊重するとともに、以下のように受け止めたと報じられています。
選挙結果は市民の社会の現状と深い問題に対する不満を反映するものであり、特区政府は謹んで市民の意見に耳を傾け、真摯に反省しなければならない。
(結果是反映市民對社會現狀及深層次問題的不滿,特區政府一定會虛心聆聽市民的意見,並認真反思。)
「反省の弁」についてはともかくとして、選挙結果に示された「民意」のインパクトの大きさを認めた発言だろうと思います。
ただし、以下のBBC中文版の記事でも指摘されているように、今回の選挙結果がそのまま、現在の香港の情勢を収束に向かわせることに繋がるかどうかはなお不透明であるようです。
記事で言及されているところでは、今回の選挙結果を受けて、抗議活動が要求している「五大訴求(「逃犯条例」改正案完全撤回、抗議活動を「暴動」とする見解の撤回 、デモ参加者の逮捕・起訴の中止、警察の過度な暴力の責任追及と独立した調査委員会の設置、普通選挙の実現)」に対して、行政長官が譲歩した場合、中国政府が行政長官の更迭に乗り出す可能性が指摘されています。
一方、民主派にとっても、今回の「民意」に含まれる「香港回帰」「香港ファースト」の急進的な議論に対して、中国との政治的な駆け引きのもとでタフな政治的交渉を進めながら対処していかなければならず、「香港」と「中国」とのあいだでバランス感のある役割を果たしていくことが求められます。
今回の選挙結果は、香港に関わるすべての人々にとって「前代未聞」の出来事となりました。
それは明らかに、この半年近く、香港で展開されてきた抗議活動がもたらしたものでした。
しかし、このような結果が、これからこうした抗議活動に、政治状況に、国際社会に、そして何よりも香港社会のこれからにどのような影響を与えるかということは、多くの人々にとってもまだよくわかっていないと思われます。
それはむしろ、これから生じる様々な動きの中から徐々に見えてくることだろうと思います。
ですので、これからの香港社会の動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!