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偉くない話

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  • 2021/01/02 01:15

>自分の意思で生きていられるだけで十分に幸せ
前に書いたことについて書いてみようと思う。私が「他者に何かされたいという気持ちが少ない理由」のひとつである。これまでも何故望まないのかとか、そのままで何故焦らないのかと訊かれる場面が度々あった。端的に言うと、自然の生物としての在り方の方が、人間社会における在り方より大事だと思うからだ。

 私はよく自分のことを「社会不適合」とかクズとか言うのだが、他者と共生できない程の問題を抱えているという意味ではない。価値観を置く基準が違うということであり卑下でもない。現在の資本主義経済で回る社会には価値観が適合しない(金を稼がない、権力を求めない)ことや、自分に起きたことばかり考えている様子を指しているので、むしろ自分では肯定しているつもりであり、同じような人も多数いると思っている。誤解されることで、関わる他者をある程度絞っている気もする。(クズに関しては他にも倫理観とか色々あるがそれはまたいつか書く)

 物心ついてからずっと、周囲で言われる「偉い人」というのが腑に落ちなかった。生物的には偉い人などいない。天皇も総理も戸籍のない庶民もホームレスも、その他の動物や微生物と同様に命の価値は同じである。みな自分の意思が生まれる前に、強制的に偶然発生させられている。子供の頃は知らないことも多く言語化できていないが、何故あのじいさんは周囲にペコペコされるのか、何故この声のデカいおっさんに皆気を遣っているのか等、大人の人間関係に対する違和感は持っていた。そして「偉くなれよ」とは何を期待されているのか不明だった。

 子供がよく訊かれる「将来何になりたいのか」という質問にしても答えは「ない」しかなくいつも困った。自分の意思で生きてさえいられたらよいのだが、うまく説明できないので「宇宙飛行士」と答えていた。外宇宙に行けるものなら行ってみたかったし、実現可能性の低いことを答えると大人は喜ぶからだ。思えば学生時代、文学部に入ってから自分が研究に全く興味がないことに気付いた後、何か他に自分が表現できることはないかと考えた時に映画を選んだのも、構成要素が沢山あって一番難しそうだからだったと思う。私はずっと子供のままだった。

 もちろん「偉い状態の人」は居る。他者を心から喜ばせた瞬間、喜ばされた人にとって偉い。他者を喜ばせることが多く、喜ばせる他者が多い人は比較的偉い時間が長いと思う。互いに喜ばせ合う関係は無敵だ。スターである。社会的な問題解決に取り組んでいる人は当然偉い。他者を傷つける偏見や制度を改めさせ公平なものに変えようというのは、現在不当に奪われている他者の幸せを回復することである。それはすこぶる偉いし、必要な時に必要な事が出来る人は「カッコいい」とも思う。

 他者を喜ばせる技術にも価値があると思う。美味しい漬物を作る技と、愛される企業を保つ技は同じ位の価値がある。そんな技術が何もなくても、何もせずじっとしている方が他者を傷つけるよりは偉い。不要にウイルスをばら撒かなかったり、エネルギー消費を抑えることで結果的に殺させる家畜の数を減らしたりもしている。偉い。

 拝金主義や権力志向では、ポイントを稼いで他者を上回ることが偉いことになる。他者に邪魔されないことを望み、金を払えば問題は解決すると思っているように見える。だが金を払うこと自体は労働の対価など当然の義務であって他者を喜ばせることではない。拝金主義や権力志向を肯定する側の意見として「自分の生存を確保する為の当然の権利」とか「公に了承された取り決めに則ってゲームをしているだけ」等があると思うが、他者の幸福を阻害したり、社会的弱者の時間を搾取したり、生存環境を持続できない経済活動を認める理由にはならない。

 差別を正当化する人、陰謀論を信じる人、横暴なだけで自分は偉いと思ってる人、偉いから自分は愛されるべきだと勘違いしている人、自分が間違っていないか疑わない人などを、私は忌避している。そういう人は社会的な差別と個人的な好き嫌いの区別もつかず、多様性が必要な理由など考えたこともないんじゃないか、などと思ってしまうので、話をする気にならない。だが最後に挙げた「自分が間違っていないか疑わない」状態には誰でもなり得るし、自分も余程気を付けなければなりかねない。

 今回は「偉い」という語句を選んだせいか、自分と価値観や主義の違う、嫌いな状態の人を批判する文章になってしまった。「自分の意思で生きていられるだけで十分に幸せ」ということについては、書いておきたいことは他にもある。そう思うようになった理由(と自分で考えている経験)や、社会的に価値がないと思われるだろう、私の好きな過ごし方やその理由など、今後も書いていけたらと思う。私が書く理由は忘れてしまうからであり、完全に自分のためなので、私も間違いなく偉くはない。

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