<24話>
マスターは涼太に一つどうしても聞きたいことがあった。
「君は、涼太君はなぜ独立時計師になりたいんだい?」
そこで答えた涼太なりの答えとは?
誘ってくれたイスに座り込む。
職人のぬくもりが感じられたのは気のせいだろうか。
「さて、スイスの時計づくりの本場・バーゼルを知らない君に質問するのは愚問かもしれないが、向こうの時計専門学校について知っている事はあるかい?」
「ないです」
即答した。
「ははは、だろうね。向こうでも基本的にやっていることは同じだよ。4年制の専門学校で生徒たちは卒業までに、独自の腕時計を1本創り上げることが卒業条件になっているんだ」
「4年もかかるんですか?」
意外だった。1年もあれば、作れるものかと思っていた。
「優秀な子でも3年くらいは見たほうがいい。それこそ天才は、例外だけどね」
天才と聞いて、京一郎が浮かんだ脳内を少し恨んだ。
「この話を聞いて、何年で腕時計を作るか少しかんがえて…」
「1年で」
マスターの言葉を遮るように力強く返事した。
「ほう、では設計図の書き方を教えようか」
大学に入って初めて、授業を受けている感じがした。
そこから、しばらく初作品のデザインをどうしようかずっと思案していた。
「おはよう、珍しく今日は早いねー」
部室に、桜より早くいるのは多分初めてなので、こう言われても仕方ないかな。
肌寒い風が廊下から室内に侵入してくる。
「桜、寒いから早くドアを閉めてくれ」
「うん」
バタン。扉の勢いで冷たい風が室内に運び込まれる。
「アルバイトに行き初めてから、なんか生き生きしてるよね」
桜はほんとにいつも笑顔だな。
蝉の声はなくなり、緑色の葉が、赤や黄に染まっていた。
「初作品に向けてようやく動き出したんだ。そりゃ嬉しいよ」
「私もようやく自信のある作品が出来たかな!お互い頑張ろうね!」
「おう」
互いにエールをかわし合った。
しばらくして、黙々と互いに作業に励む。
次の日に2回目の試験が控えていたこともあり、
いつもに増して、集中力を研ぎ澄せた気がする。
「最近の近況を簡潔に教えてくれ」
試験官の京一郎との面談。
試験とはいえ、相変わらず世間話みたいな質問。
他愛もないことも含め、包み隠さず話す。
面談時間も終わろうかという時、
「それで、君はどこへ目指す?」
最後の突拍子の無い質問に、言葉が詰まった。
「分からない」
そう返すのが精いっぱいだった。
今回もダメだったとなぜか思わされた。
後日、マイナンバーカードの消費トークンをちらちらと確認する。
「240トークン」
また、現状維持か…。
でも、今回の面談で分かったことがある。
京一郎は俺の覚悟を見てきている。
その意志を具体的に見せない限りは、永遠にトークン価値は上がらないだろう。
ため息をつきながら部室に行くと、みるからに上機嫌な桜がいた。
「桜、トークンの価値上がったのか??」
きっとそうだろう。
「どうしてわかったの?」
目を真ん丸にしてこちらに飛びついてきた。
「顔に出やすいから」
いつものように用意してくれていたコーヒーを俺は飲み干した。
次回もお楽しみに!26話へ!
「仮想通貨な世界」登場人物&世界観
「仮想通貨な世界」1‐20話