今回は前回の続きみたいな文章です。
外来語には音として耳から入ってきたものと綴りとして目から入ってきたものがあります。
例えば、私たちは今「ハワイ」と言っていますが、もしも昔の日本人が先に Hawaii という綴りを目にしていたら、ひょっとしたら今ごろ「ハワイイ」と呼ばれ/書かれていたかもしれません。
私たちはごく当たり前にサヨナラはグッバイ、ありがとうはサンキューと言っていますが、これも書き言葉として先に入ってきていたならグッド・バイ、サンク・ユーとなっていたでしょう。
グッド・バイは書かないでもないですが、サンク・ユーはまず書きません。それはこの言葉が明らかに耳から先に入ってきたということなのだと思います。
ラップやヒップホップが日本に入ってきたのに合わせて、日本でもチェケラなどと歌う人が出てきましたが、これも目から入った英語としてはチェック・イット・アウトです。
パーリーピーポーが年配の方に通じないのは当たり前で、彼らは教科書で学んだ単語の通りパーティー・ピープルと言わなければ分からないのです。
そして、中には2つの読み方が元々ひとつの単語に共存して表記を異にしたりすることがあります。
前回書いた例で言うと、同じ strike でも野球ならストライクで、職場でならストライキです。
最初に日本語に置き換えた人がそんなことを意識していたとも思えませんが、今では表記を違えることによって、結果的に意味が区別されているわけです。
これも前回書いたことですが、stickにはスティックとステッキという2通りの読みがあります。
多分、古い時代に耳から入ってきたのがステッキで、綴りを見て読んだのがスティックなのでしょう(まあ、当時の日本人にはティの音が発音できなかったということもあってスティッキではなくステッキになったのでしょうが)。
ステッカーも元は同じ動詞の stick (「くっつく」の意)に -er がついたものです。くっつくもの=ステッカー(って、知ってました?)
閑話休題。2通りの表記の話に戻りましょう。
例えば watch は通常日本語ではウォッチと書かれます。腕時計の意味です。これは恐らく目から入ってきた外来語です。それとは別にワッチという表記もあります。これが恐らく耳から入ってきた英語、つまり、そういう風に聞こえたということです。
ワッチは航海用語で見張り(台)の意味です。もう少し意味を敷衍して「当直」を表すこともあるようです。多分初めて西洋の船に乗り込んだ日本の侍だか水夫だかの耳には watch がワッチに聞こえたのだと思います(それは正常な耳だと私は思います)。
で、逆に言うと、ウォッチだったら腕時計、ワッチだったら見張りと区別が付くのが面白いな、と私は思うのです。
同じような例で、私たちはどこで学んだのか(多分アメリカの戦争映画かテレビの戦争ドラマだと思うのですが)、電話などで「了解」と言わずに「ラジャー」と言ったりするようになりました。
これは綴りとしては roger なのです。もし、R が大文字だったらどうでしょう? それは男性の名前になって、我々日本人はロジャーと読み書きしています。ラジャーは多分綴りなんか全く知らないまま耳から入ってきた英語なのでしょう。
こういう2通りの書き方というのは意外にあって、four は通常フォーと書きますが、フォアボールやフォアローゼズはフォアなのです。恐らくこちらが耳からの英語なのでしょう。
あと、ラベルとレーベルもそうですよね。どちらも元の英語は label です。
これらを単なる不統一と見るか、それとも読みを違えて意味するところや印象を分ける工夫と考えるか、人によって受け取り方は違うんでしょうね。同じ棒でも杖の場合だけスティックではなくステッキになるなんて、なかなか素敵な工夫だと私は思いますが(笑)