handaさんが書かれた記事「【共有】BLACK LIVES MATTER」のコメント欄にも少し書いたのですが、書ききれなかったのでこちらに書き直します。
日本語に訳しにくい英語の動詞って、結構あります。
学校で最初に習うものとしては多分 miss じゃないでしょうか。
I miss you. あなたがいなくて淋しい。
この例文に出会って、中学生だった私は仰天しました。miss というたった1音節の短い単語が「…がいなくて淋しい」などという長い訳になってしまうことの不思議! しかも、miss の目的語は人とは限らず、物や事の場合だってあります。
その次に出会ったのが多分 appreciate。こっちは miss と違って4音節の長い単語ですが、意味するところは複雑です。
I appreciate it.
この英文の恐らく一番こなれた和訳は「どうもありがとう」でしょう。しかし、appreciate は単純な「感謝する」ではないのです。
私はあなたがやってくれたことをつまらないこととも余計なこととも思っていなくて、正当に評価して心から深く感謝している。── I appreciate it. はそういう「ありがとう」なのです。
それから handaさんが書いておられた matter と、私がコメント欄で書き添えた care。これらの動詞は「重要である」とか「気にする」とかという紋切型の訳ではうまく伝わらないケースがあります。
matter や care は、後述するように、通常は疑問文や否定文で使われることが多い動詞ですが、むしろそのほうが日本人には訳しやすいんですよね。ところがたまに肯定文で Black lives matter. なんて言われると、途端に訳せなくなる、と言うか、まずどれが動詞なのかも分からない(笑)
特に matter は自動詞だから目的語を取らず、従って短い表現なのに、日本語にしようとすると短い単語訳ではしっくり来ません。
例えば否定文だったら、
It doesn't matter at all. そんなのどうでもいいよ
I don't care. どっちでもいいよ(気にしないよ)
あるいは、疑問文(意味するところは実は否定なので、修辞疑問文と言ったほうが良いかも知れませんが)だったら、
Does it matter? それ、なんか問題ある?(そんなことどうでもいいだろ?)
Who really cares? 誰がそんなこと気にするかよ?(誰もしないよ)
などと訳し方のパタンもニュアンスも掴みやすい気がします。
この訳し方をしっかり掴んだで、肯定文の場合は、その裏返しだと考えれば良いと思います。
(どうでも良いと言う人もいるでしょうが)私は大事だと思う
(お前は気にしないかも知れないけど)俺は気にするんだよ
という強い肯定の感じになります。2人が会話しているシーンを想定すると、
It doesn't matter at all. そんなのどうでもいいよ
It really matters for me. 俺にはどうでもよくないんだよ
あるいは、
I don't care. 俺はどっちでもいいよ
I care a lot ! 俺はどっちでもよくなんかないんだよ!
(この場合 I に強いアクセントを置いて)
そんな感じで捉えると、ニュアンスが理解しやすくなるのではないでしょうか。いずれにしても、matter ってかなり強い表現です。
What really matters is not what one does but how one does.
(本当に大事なのは何をするかではなくどのようにするかだ)
みたいな、決然とした表現になることが多いように思います。
まあ、どこの国の言語にも日本語に訳しにくい単語というものはあるもので、それがある意味その国の文化を象徴しているのではないでしょうか。
その逆に、外国人がそのニュアンスを母国語に訳しにくい日本語もたくさんあるわけで、彼らは一生懸命訳語を考えたりもする一方で、面倒くさくなったのか、そのまま日本語の単語を使っている場合もあります。
例えば mottainai や kawaii などがその例でしょう。
昔、エルトン・ジョンだったかビリー・ジョエルだったかが、自分のプロモーション・ビデオの中で Kamikaze! と叫んでいたのを思い出しました。
言葉は文化ですね。