あなたの口づけが
私の子宮のずっと奥
水平線のはるか彼方に起こした小さなさざ波
あなたの厚いてのひらに愛撫されながら
大陸に近づくほどに
うねりは大きくなり
漁船の船端を横なぐりに打ち寄せて驚かせ
さらに高くなって
ああ沖合に津波のような波頭が姿を現した
私のすべてを洗いさることすらできるエネルギー
息をのんで待ち受ける私の究極のエクスタシー
波打ち際が近づくと
白い波頭に見えるあなたのサーフィン
星空を背景に両手を水平に伸ばしたあなたが
微妙なバランスを保ちながら
見上げるような波の上を滑ってくる
あなたが来る
あなたが私に打ち寄せる
衝撃と歓びにそなえて
私は目を閉じ
硬直しそうな体をあえて弛緩させ
すべてを受け止めようとする
あなたのすべてを受け止めようとする
けれどもあなたは
大陸に打ち上げる寸前
波頭から空高く舞い上がる
羽も生えていないくせに
両手を広げ
鳥のように
グライダーのように
あなたは星天に舞い上がる
薄っすらと流れる雲の層を抜け
成層圏をやじろうべえのように滑り
とうとう地上の重力を脱して
命綱の切れた宇宙飛行士のように
漆黒の宇宙に吸い込まれていく
あなたは私の体を愛撫することで
星になりたかったのね
詩になりたかったのね
私はこの地上であなたと一緒に泥まみれになって
這いずりまわりたかったのに
あなたは私の体を愛撫することで
地球を去っていきたかったのね
消えてしまいたかったのね
もう戻らないつもりなのね
私はそのための最後の恋歌だったのね
私はあなたのために新しい島を産み
そこに楽園を作っていきたかったのに
一緒に作りたかったのに
あなたが巻き起こした波に洗われて
すっかり新しくなった大地の上のどこか
遠い林の中で
産声が聞こえる
あなたの残した新しい命を
私はこの星の上で育む決意をかためる
たとえあなたが何光年先の星になっても
私はこの青い星に生きる
このか弱い小さな灯を守って・・・・・