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ブロックチェーンによる"電力取引の民主化"は幻想か

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  • MALIS
  • 2018/09/04 23:01

皆様こんにちは、ALISがマイクロソフトと提携することを見越していた私、


Microsoft×ALIS=MALIS です。


さて、先週から再エネ×ブロックチェーンを延々話しているんですがTwitter上でこんなご指摘を

うーん、パブリックチェーンでやるのかなぁ?と思ってたのですが、よくよく考えたらプライベートチェーン一択かなぁ、、と思います。

さらに、電力市場の用いている技術を考えると、おそらく"疑似的なP2P"になるのではないでしょうか?


以前「関西電力がブロックチェーンでP2P売買に取組むわけ」という記事で、電力P2P売買のイメージはオレンジの枠のとこ、と示しました。

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あくまでイメージですよ

分散化、P2Pの極みみたいな絵ですね。

(よね?)

しかし、実際のところ電力業界がこの絵のように"分散化”するにはたくさんの壁が出てくるでしょう。

話がややこしいので、

1. 物理

2. 情報

3. 課金請求

に分けて見ていきましょう。



1. 分散化への"物理的な壁"

電力の世界で物理的なものっていうと、発電所とか電線とかですよね。

まずは発電所の分散化から。


(1)発電所の分散化

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今回のシリーズで扱っている"P2P取引"の大前提になっているのは各ご家庭にある太陽光発電ですよね?

しかし、太陽光発電100%でみなさんが使う電気をまかなうことは相当難しい。今の技術&コストでは無理です。

まず、夜間や曇りの日、雨の日は発電できないので蓄電池が必要なのですが、全部賄えるほど蓄電池を置くとなると

・コスト
・置き場所

の2つで現実的じゃありません。

小さい蓄電池でいっぱい電気ためれるやつ(エネルギー密度といいます)作ったらいいんちゃうか?という話もありますが、エネルギー密度が上がると今度は発火爆発の危険性が高まります。

そんなもん各家庭に置けるか?って話です。


仮にですよ、すごい技術革新で"安心安全エネルギー密度超高い蓄電池"ができたとしても、そんなに貯められるほどソーラーパネルが発電してくれません

何度も言うけど雨天休業ですから。

今のソーラーパネルじゃ日本全国に敷き詰めても電力賄えません。もっというと全世界に敷き詰めても無理だとハーバードの教授が言ってました。

海にソーラーパネル敷き詰めたらいけるかもですが、そんな地球に私は住みたくありません。


というわけで、電力足りないときに供給してくれる大型水力、火力、原子力といった”中央集権”な電力源はやっぱり必要になります。


次に

(2)電線の分散化

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まずですね、、

ブロックチェーンが入ろうが電線は分散化しません。

第1の理由は、前回記事でも述べた通り電線を管理する”送配電事業”が電力自由化後も規制産業として残るからです。

送配電線も自由化しろって論調もありますが私は全く賛同しません。なかなか代替がきかないですからね、私がこの産業を民営化して参入できるなら電線使用料を即Moonさせて億り人狙いますね。


とはいえ、全く分散化が進まないかと言われると、そんなことはなく一部では分散化していくからでしょう。

マイクログリッドが出てくるからです。

マイクログリッドとは、

"ある一定の需要地内で複数の自然変動電源や制御可能電源を組み合わせて制御し、電力・熱の安定供給を可能とする小規模な供給網"

のこと。(Japan Smart Community Alliance

実際、海外のブロックチェーンを利用した電力プロジェクトはマイクログリッドへの適用事例が多い。日本だと、公道をまたぐと現時点の法制度的にアウトなので同じ敷地内でできるところ(大学キャンパスとかコンビナートとか)がまずは対象になるでしょう。

ただ、法規制うんぬんを別としても、発電所のところで述べた緊急時バックアップの問題が残るので、”中央集権的”な送配電線は必要となります。


さらに、電線って繋げばいいってもんじゃないんです。

日本のような先進国で電気の電圧、周波数が乱れるのは致命的。

照明が明るくなったり暗くなったりするなぁ、、くらいならいいですが、工場のモーターや精密機器には大きな影響がでてしまいます。

"安定的な電力供給"って言葉にすると簡単ですが、国の経済発展の基礎中の基礎だったりしますからね。今の日本の送配電事業者が担っている運用の精度を分散化したネットワークで実現するのはまだ技術的に難しいのです。


2. 分散化への"情報の壁"

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次は電力データ管理の技術、構造上の問題。

"電力データ"とは、

・どれだけ消費するか

・どれだけ発電するか

の需要/供給データを指します。

端的にいうと電力メーターで計測する数字のことですね。

以前の記事で、スマートメーターが導入されるので電力の世界でもIoT化が進むって書きましたが、このスマートメーターのデータは誰でも使えるものではありません。

当然です。

スマートメーターを導入すると各家庭の電力データが30分単位で見えるようになるんですが、分析すればいつ家庭に人がいるか、いつご飯食べているか、丸見えになってしまいます。


犯罪者大喜びですよね?


なので、スマートメーターで収集したデータは

規制されている送配電事業者が収集して管理→消費者が契約している小売事業者に渡す、という流れになっています。(Cルートと言います)


スマートメーターのデータを利用する限り、送配電事業者を経由する”中央集権型”のデータ管理は避けられません。もっというと、スマートメーターの情報は普通のインターネットを経由するわけではなく、無線マルチホップやPLCといった方式で運ばれます。

よって、電力データをP2Pでやり取りするという表現はこの情報流通の構造上不可能なはずです。


以前ご紹介したPower Ledgerさんと関電さんのP2P電力取引の取組みをみると、"仮想発電所"というキーワードが出てきます。

これは、各家庭のソーラーパネルでの発電したけど余った電力をかき集め、仮想的に大きな発電所と見立てて取引をすることを意味します。すなわち、関西電力さんがアグリゲーターとして電力データを扱うということでしょう。


3. 分散化への"課金請求の壁"

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最後にお金の流れ。

以前の記事でもふれた話なんですが、現時点で消費者がP2Pでトークン使って電力売買したいかというと、したくないでしょう。

日本円ほしいよね(笑)

電力会社と契約しているなら、売った分を電力料金から引くとか相殺して課金請求くれてた方がよっぽど利便性が高い。


トークンはスマートコントラクトを成立されるために使われ、1トークン1kWhといった単位で使われるのではないか?kWhと日本円との対比は市場価格なりと連動するのではないか?

そう考えると、P2Pとして顧客の目に見えるのは電力会社の請求書に記載される

"電力のP2P取引明細"

だけではないかなーと思います。


4. 電力は完全民主化されなくてもいい

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というわけで、"P2P電力取引"とは各家庭が実際にP2Pで取引をするというよりは、各家庭の許可を得て電力会社がP2Pマッチングすることを意味するのではないかなと私は理解しています。


あれ、、、じゃあPower Ledger、

The Democratization of Power = 電力の民主化 とか動画で言っているのにゴリゴリ中央集権じゃないかよ、と思う方もいるかもしれません。

しかし、私はこの仕組みは別に間違っていないと思います。

電力を使う側にとって優先すべきは民主化ではなく、安定供給してくれて、透明性が高くて、緊急時もすぐ対応してくれて、、、ってことだと思います。


一方で、疑似的にでも各家庭が自分のおうちで発電した電力に主導権をもつことで透明性や効率が高まる部分が出てくるはず。


すべてを分散する必要はない。


バックアップ機能も担う中央集権的な電力構造と、自律分散化した構造が共存しあうハイブリッドな世界こそが、強靭な電力の世界だと思うのです。




というわけで長くなりましたが、電力業界の用いている技術的構造的側面からP2P取引への課題と現実解の解説でした。

本当は、パブリックチェーンで実現するための課題を書こうかなと思っていたんですが、冒頭話をした通り需要なさげだなと判断しました。匿名化の技術が完成しても、スマートメーターCルートの情報流通経路は変わらないはずです。

(現時点での考察なので色んな意見をお待ちしております。)


ちなみに、、、ブロックチェーン×電力×IoTの技術的課題も一緒に書こうと思ってましたが完全に文字数問題発生のためまた気が向いたら書きます。


それでは、みなさまごきげんよう!


Microsoft×ALIS

MALIS


◆このシリーズ

1.電力革命とブロックチェーン

2.関西電力がブロックチェーンでP2P売買に取組むわけ

3.電力のデジタル化を支えるのはブロックチェーンか

4.電力×ブロックチェーン、立ちはだかる法規制


◆他のエネルギーシリーズはこちら↓


◆ツイッターはこちら↓


公開日:2018/09/04
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