私は朝から体調を崩していた。どうも先日の無理がたたったからしい。どうしようもないほどの倦怠感が身体を蝕み、やがて激しい動悸と凄まじい圧迫感が覆ってきた。どうしよう。そうだこんなときは「つながりボタン」だ。
しばらくすると数百メートル先に住んでいるイトウさんが訪ねてきた。共通キーワードを渡してあるので玄関のロックを開けて入ってこられたのだ。
「どうしました? ミナミムラさん。随分顔色が悪いようだけれど」とイトウさんは優しく尋ねてきた。「いや、ごめんなさい。どうも体調が悪くて。ちょっと動けなくなってしまったんで、つながりボタンを押しちゃいました」
「そういうときのためにこのボタンはあるんですよ。いいんです。それでどんな塩梅なんですか」とイトウさんは冷静に対応してくれた。
そういえば何年か前には逆の立場だったことがあったイトウさんが木工作業の際に怪我をして出血が激しかったとき、私がボタンでよばれて駆けつけ、止血と救急搬送をした。さほど重症ではなかったのだが、イトウさんには過分なほど感謝された。
「お互い助け合いましょう。この村には医者はいないし、病院までは小一時間かかる。だから老いた者同士助け合うんですよ」とイトウさんは笑いながら言った。そうだ、この村に越してきたとき誓ったのだ。これからは村を生命共同体と考えて生きるのだと。それが幸せの近道なのだと。
自分の利益の事ばかり考えていた街での生活に倦んで、いまこの片田舎に暮らすことで生きる意味を見つけたのだ。そうだ、助け合わなくてはならない。そのためにもこんなことで負けてはいられない。回復したら、村のためにまた何かをしたい。そう思うと何故かスッキリした気持ちになった。