著者 エリヤフ・ゴールドラット
訳者 三本木亮
発行 ダイヤモンド社
アメリカ地方都市の機械メーカーに勤めるアレックス。役職は工場長です。いつも仕事を理由にして家族と一緒の時間が少なく、妻から文句を言われています。ある日上司から、あと三か月以内に傾きかけた工場を立て直さないと、工場を閉鎖すると告げられます。
アレックスはあまり有能な人ではありません。本書はおおらかな1980年代に書かれたせいかコンプライアンス意識も低く、酒を飲んでから車を運転するわ、普通道路で130km/h出すわ、飲んでから出社するわ、酔っ払って部下の女性に抱きつくなど、目に余ります。しかし一つだけいい点があって、工場を立て直すために努力だけは惜しまないことです。
大学時代の恩師ジョナ(物理学者、イスラエル人)に助言を求めながら、一つ一つの問題に部下のルー(経理、引退間際)、ボブ(製造、巨漢)、ステーシー(資材、セクハラに負けない強い女性)、ラルフ(IT、日系人)らと対応していきます。ついには工場を立て直し、売り上げも他の工場を圧倒するまでになるのでした。
この本は生産管理がストーリー仕立てで学べると聞いて数年前に買いました。私は顧客業務にあまり詳しくないので、読んでいるうちに知識が得られればいいなと思ったのです。小規模工場を経営している友人に勧めたいです。工場内で最も重要(工場の生産高を決める)な設備を本書ではボトルネックと呼んでいます。ボトルネックを見つけ、その設備を休ませず、可能なら設備増強を模索するという手順はクリティカルパスの親戚みたいなものだなと思いました。工場と言うのは部分的にロボットを導入して生産性を向上させようとしてもだめで、全体最適が重要なのだとよくわかりました。
本書は夫婦愛、友情、そして成長の物語でもあります。アレックスの妻は、あまりにアレックスが夫婦間の約束を破るので実家に帰ってしまいます。アレックスはなんとか時間をやりくりしながら、妻に会いに通います。妻が家に戻るところは描写されませんが、アレックスは工場を立て直し昇進したことで時間ができたので、おそらく戻ったのではないでしょうか。
ルー、ボブ、ステーシー、ラルフとは修羅場をくぐったことで一体感が出て、今風の言葉で言えばワンチームとなった感がありました。アレックスは副本部長になり複数の工場を見る立場になります。ボブは工場長、ステーシーはやりたかった製造を任されることになります。おのおのの成長が見えます。本書の最後で、ルーがアレックスの肩に腕を回します。そのシーンがとても感動的でした。「一緒に働くことができて、誇りに思っています。」そんなことを言われた人が、世の中にどれだけいるでしょう。ダメ男アレックスがそんなことを言われるまでになるとは。不覚にもジーンときてしまいました。
500ページ以上あるので、なかなか読み始めるのに勇気がいるかもしれません。でもあまり難しい表現や専門用語は出てきません。大学生や若いビジネスパースンにおすすめです。製造業だけでなく、会計士・経理担当者にもいいかもしれません。
以上