ワタミ株式会社は2020年9月15日に高崎労働基準監督署から残業代未払いで労働基準法37条違反の是正勧告を受けました。弁当宅配事業で働く女性社員の残業代です。女性は精神疾患を発症して休職中です。長時間労働が原因とみられます(「ワタミが残業代未払いで労基署から是正勧告」共同通信2020年9月29日)。ワタミがホワイト企業ではなく、相変わらずブラック企業体質であることを示しました。
ワタミがブラック企業体質を反省していないことは、創業者の渡邉美樹参議院議員(当時)の国会での発言にも出ていました。渡邉議員は2018年3月13日の予算委員会の公聴会で、公述人の立正佼成会附属佼成病院過労死遺族に以下のような非礼な質問を行い、謝罪を余儀なくされました。「働くことが悪いことであるかのような議論に聞こえてきます。お話を聞いていますと、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえてきます」。
佼成病院過労死遺族の中原氏は「働くことが悪い」や「週休7日が幸せ」とは一言も言っていません。相手が言っていないことを言っているように述べて、それで相手を批判する論法は卑怯です。渡邉議員が批判されたことは当然です。しかし、そもそもそもそも週休7日が悪という発想自体がブラック企業的です。多くの起業家の夢はアーリーリタイアです。週休7日は人間にとって幸せな世界です。
現代文明は西欧が大きな影響を与えました。その思想的基盤となったキリスト教では労働は罰です。日本国憲法も職業選択の自由を定め、働かない自由も認めつつ、勤労を義務と位置づけます。できるだけ働きたくないし、長く休みたいという発想は自然なものです。労働は善行で徳を積むものというような発想こそ前近代的な古い考えです。渡邉さんは新しいタイプの経営者というよりも、古い昭和的な経営者と位置付けられます。
頑張ることを美徳とする昭和のガンバリズムが人を不幸にします。「働くことが悪い」や「週休7日が幸せ」と考えて何が悪いという社会にならなければ過労死をなくせないでしょう。この感覚を理解できなければワタミはホワイト企業にはなれないでしょう。
ホワイト企業がどのようなものかを描いた漫画に、結城鹿介原作、髭乃慎士作画『社畜が異世界に飛ばされたと思ったらホワイト企業だった』があります。ブラック企業とホワイト企業のギャップを風刺するギャグ漫画です。ニコニコ漫画「このマンガがヤバい!2018年」ノミネート作品です。
主人公かすみは新卒でブラック企業に入社し、ブラック企業の文化が当たり前と思ってしまった可哀想な女性です。かすみは深夜残業の休憩中に屋上で見た流れ星に「有給1日だけください」と願ったところ、不思議な光に包まれて目が覚めたらホワイト企業「ホワイト製作所」に転職していました。
これが転生です。転生物は現実世界からファンタジー世界に行くことが基本ですが、これは現実世界から現実世界への転生です。ファンタジー世界への転生物でもファンタジー世界に現実のスキルやビジネス感覚を活かす話がありますが、本作品は異なります。
本来ならばホワイト企業が当たり前になるものであり、ブラック企業が異常です。ところが、かすみはブラック企業が常識になっており、ホワイト企業の文化に戸惑います。それが笑いになります。漫画だから笑いになりますが、現実社会でもブラック企業に就職する人とホワイト企業に就職した人の意識の断絶があるでしょう。ブラック企業は目も当てられません。人権がないかのような環境でモチベーションも主体性も思考力も奪われ、延々と下働きをこなすことになります。
ブラック企業の特徴としては集団主義があるでしょう。本作品のブラック企業には朝礼がありますが、ホワイト企業にはありません。勿論、ブラック企業判断では朝礼の有無よりも朝礼の内容が重大です。精神論根性論を注入するような朝礼ならば完全にブラック企業です。一方で朝礼への参加が義務になると、フレックス出社が成り立たなくなります。故に朝礼という仕組みがあるだけで、ホワイト企業になりにくくなります。
本作品のホワイト企業は緩くて温いです。これがホワイト企業の特徴になっていることが重要です。そこには厳しい仕事を通して自分を成長させるという価値観はありません。そのような価値観を持つこと自体がブラック企業寄りになります。この発想がワタミには理解できないところでしょう。
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