NHK大河ドラマ『どうする家康』最終回「神の君へ」が2023年12月17日に放送されました。大阪夏の陣が始まります。あっという間に後藤又兵衛が討ち死にしました。徳川家康の本陣に真田信繁が突撃します。この攻撃で家康本陣は混乱に陥り、三方ヶ原の戦い以後倒れたことのなかった本陣の馬標が倒された上に、徳川家康は逃走し、死を覚悟したと描かれることが多いです。これは情けないが、必死に生きる家康イメージとして受け入れられています。
これに対して『どうする家康』の家康は落ち着いています。真田の赤備えの武者達に「乱世の亡霊よ、わしを連れていってくれ」と呼びかけます。まるで実は倒されることを望む漫画のボスキャラのようです。家康は手を真田の武者達に向けます。『STAR WARS』のパルパティーンならばフォース・ライトニングを繰り出しそうな姿勢です。あえて悪役を演じて乱世を終わらせようとしているかのようです。
千姫は家康や秀忠らの前に出て豊臣秀頼の助命を訴えます。千姫は多くの人が豊臣秀頼を慕っていると言いますが、その事実は反対に徳川方が助命しない決意を固める理由になるでしょう。家康は豊臣秀頼を救おうとしたが、その意思が前線に伝わらずに秀頼が自刃に追い込まれたという責任逃れの展開にしないことは見事です。
淀殿の最期は乱世の終わりと演出します。徳川の天下で日本はつまらない国になると予見します。実際、安土桃山時代の豪華絢爛と比べると、官僚支配のつまらない国に見えるでしょう。山田芳裕『へうげもの』に描かれた古田織部も、そのような意識がありました。
『鎌倉殿の13人』で北条義時を演じた小栗旬さんが南光坊天海役で出演します。天海は明智光秀説があります。小栗さんは実写映画『信長協奏曲』で明智光秀を演じました。小栗さんの出演は事前に発表されたもので、事前発表したならばサプライズになりませんが、誰が演じているか分からないような老け役であり、事前発表する意味がありました。この種のサプライズは昨年の大河ドラマの主演だから付き合いで主演したという内輪の盛り上がりになって消費者を萎えさせる危険がありますが、全然違う見た目の役になりきった点で役者として胸を張れる仕事になりました。
天海は「源頼朝公にしたって、実のところはどんなやつか分かりゃしねえ」と言います。『鎌倉殿の13人』の頼朝を知っているかのような口ぶりです。書物として吾妻鏡に加えて源氏物語も持っていました。2024年の大河ドラマ『光る君へ』につながります。天海が持っていた源氏物語は夕顔の巻でした。夕顔は佳人薄命の物語です。瀬名を示しているのでしょうか。
語り手は春日局でした。春日局が竹千代(徳川家光)に家康の偉業を語り聞かせる体裁でした。『どうする家康』では豊臣秀吉が貶められていました。春日局は明智光秀の重臣の斎藤利三の娘です。利三は山崎の合戦後に捕縛され、秀吉に処刑されました。秀吉は親の仇であり、秀吉を悪く描く理由があります。
どのような終わらせ方にするかが見どころです。家康は茶屋四郎次郎に献上された天ぷらを食べ過ぎて腹痛を起こして亡くなったというエピソードがあります。『どうする家康』は北川景子さんの市と淀殿の親子一人二役が話題になりましたが、茶屋四郎次郎も中村勘九郎さんが初代と二代目の親子一人二役を演じました。家康に鯛の天ぷらを献上したとされる茶屋四郎次郎は三代目です。三代目が登場するかと予想しましたが、外れました。
修羅の道を進む家康は『鎌倉殿の13人』の北条義時に重なります。それならば『鎌倉殿の13人』のように意表を突いた死で、そこに天ぷらが絡むのかと予想しましたが、これも外れました。
エンディングは意表を突きました。大河ドラマの終わり方として賛否両論が出そうです。やはり家康にとって瀬名は重要な存在でした。築山殿のイメージを一新させた点で新たな家康の物語を作った作品になりました。海老すくいは築山殿事件後に化けた家康が信長の前に披露したものです。終わりを締めくくるのにふさわしいテーマです。
悲惨な現在を否定して太平の世を作ろうとするよりも、三河の徳川家の平和を保つことが原動力でした。織田信長や秀吉ではできず、家康だから太平の世を実現できたことの説明になります。もっとも大久保彦左衛門に言わせれば、天下人になった家康は三河からの家臣団を遠ざけ、大久保忠燐を冤罪で改易し、官僚的な人物を重用したと批判されます。家康は鯉のために家臣を手打ちにしないと言いますが、その子孫の五代将軍綱吉は生類憐みの令を出しました。
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