以前の記事で、台湾の仮想通貨取引においてマネーロンダリングを防止するための議論が進んでいることを書きました。
マネーロンダリング防止は仮想通貨取引をめぐる大切な論点のひとつですが、そうした点も含めて、「仮想通貨」という新しい技術に基づく存在をどのように位置づけ、どのように管理するのかという、「そもそも」をめぐる議論も少しずつ進んでいます。
仮想通貨の位置づけは、法制度や実際の取引の方向性にかかわってくるので、非常に大切な論点ですが、大切であるだけにいろいろと微妙な問題を抱えているようです。
今回はそうした課題がうかがえる情報に接しましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・仮想通貨取引にマネーロンダリング防止法を適用の方針
・仮想通貨をどこが管理するのか?
・適切な管理のための法整備を…
台湾の大衆紙「聯合報」が運営する「聯合新聞網」に掲載された記事によると、2018年5月30日に台湾の法務部、金融監督管理委員會(金管會)、中央銀行、經濟部による共通認識として、「洗錢防止法(洗防法、マネーロンダリング防止法)」第5条の規定に基づいて仮想通貨取引を管理する方向で考えていることを行政院に報告したということです。
「洗錢防止法」の条文はこちらのサイトで確認できますが、第5条の規定は法律が適用される金融機関、および金融機関ではないが融資や投資(たとえば不動産業など)をおこなう機関の範囲について定めた条文になっています。
この条文中、非金融機関に関して、以下のような規定があります。
其他業務特性或交易型態易為洗錢犯罪利用之事業或從業人員
(そのほか業務の性質あるいは取引形態がマネーロンダリング犯罪に利用されやすい事業あるいは従業員)
この規定を仮想通貨交換業者に適用し、仮想通貨の管理をおこなっていこうという方針です。
この条文が適用されることによって、仮想通貨交換業者に顧客情報の確認、取引記録の保管と報告など、「KYC(KnowYourCustomer、認識你的客戸)」の実施を義務付けるようです。
ちなみに、この3つの方法によってマネーロンダリングを防止するという意味で、これらをまとめて「三道防線」と言います。
記事には、現在想定されている対象業者として、台湾の取引業者である「幣託(BitoEX)」や「MaiCoin」、海外の交換業者である「Bitfinex」、「幣寶(ビットポイント)」、「火幣(Huobi)」、「幣安(Binance)」が挙げられています。
今後は、こうした方針に基づいて行政院(日本の内閣に相当)で決定される段取りのようです。
行政院には2017年3月に「洗錢防制辦公室」が設置されています。仮想通貨取引におけるマネーロンダリング防止対策は世界的な潮流ですから、台湾もそうした対応を確実に進めていることがうかがえますね。
ただ、こうした仮想通貨管理の法制化を進めるうえで、台湾政府は難しい問題に直面しているようです。
台湾の経済紙「經濟日報」のウェブサイトが伝えた記事によれば、ある官僚のコメントを引いて、「誰是主管機關,恐怕也不是部會層級能決定的(誰が所管機関になるのか、おそらく部会レベルでは決めることができていない)」という問題点が指摘されています。
ネットメディアの「信傳媒」の記事には、こうした問題がより詳しくフォーカスされた記事が配信されています。
台湾で仮想通貨やブロックチェーンに関する話題が出る場合、行政機関としては「金管會」の名前がよく出てきますし、積極的にさまざまな活動にかかわっていますが、台湾では現在、仮想通貨は「商品」として位置づけられています。
そのため、現状の位置づけのままでは「金管會」は所管機関にはならないと指摘されています。
また、仮想通貨を「発行者と会員のあいだでやりとりされる貨幣」として、いわゆる「ポイント」と同じように扱うべきだとする意見もあるようです。
そうだとすれば、所管機関とすれば經濟部(経済部)になりますが、仮想通貨取引には「発行者と会員」という関係性は存在しないため、この線で議論を進めることも無理があるようです。
合わせて、ICOなどに見られるように、「有価証券」の一種として位置づける場合、海外では金融行政部門の管轄とする事例も見られるという視点を紹介しています。
台湾ではまだこのあたりの議論が整合性を持つ形で固められてはいない…というよりも、今まさに方向性を確定させていく議論を展開している最中なのだなということがわかります。
同時に、日本も含めた海外の動向が、台湾における仮想通貨の位置づけと法整備にも影響を与えることがうかがえますね。
これまでにも、立法院での議論などを記事にしてきましたが、台湾における仮想通貨取引をめぐる法整備の議論は、「いかに規制するか」ということよりも、「いかに健全に発達させるか」という側面に力点を置いているように感じます。
今回の議論も、犯罪行為は厳重に取り締まりつつ、国際的な潮流を意識しながら仮想通貨取引を健全化、活発化させていこうというものだと思いました。
台湾の仮想通貨交換業者も積極的にこうした議論にかかわっているようですから、しばらくはいろんな議論が展開されていくと思いますが、適切な法制度が整備されていくのではないかなと、期待を込めて感じます。
行政や法制度をめぐる議論は情報としては地味ですが大切な要素だと思いますので、これからもコツコツ追いかけていきたいと思います!
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台湾の仮想通貨・ブロックチェーンに関する法整備をめぐる議論について、以下のような記事を書いています。
台湾の立法院で「ブロックチェーン×金融」の公聴会が開催されましたよ!
台湾でブロックチェーン技術を推進する超党派組織と業界団体が発足しましたよ!
仮想通貨のマネーロンダリング対策は台湾でも進みつつあるようですよ
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