これまでの記事にもたびたび書いてきましたが、ブロックチェーン技術の普及と発展には「産官学」の連携が欠かせないと思っています。
特に、ブロックチェーンという、もしかしたら社会を大きく変えるかもしれない、変えつつあるのかもしれない新しい技術をめぐっては、技術を適切に育て広めるための公平・公正な環境を準備することは大切であり、そのための法制度の整備は重要だと思います。
中国では先日、行政機関のひとつである工信部(工业和信息化部)の下部組織であるCCIDが「2018年中国区块链产业白皮书(2018年中国ブロックチェーン産業白書)」を公表して、産業発展に向けた方向性を打ち出していますね。(要点は奥悉太さんがまとめたこちらの記事で把握できます)
台湾でも産業発展に向けた動きが少しずつ展開されるようになってきています。そのなかで、5月22日に台湾の立法院(日本の国会に相当)でブロックチェーン産業の発展を目指す超党派組織と業界団体が結成されたというニュースを目にしたので、書き留めておきたいと思います。
台湾の報道機関である中央通訊社が2018年5月22日に報じたところによると、同日、立法院で、立法委員の許毓仁さん(国民党)たちを中心に、「立法院推動區塊鏈連線暨産業自律組織(立法院ブロックチェーン推進ネットワークおよび産業自主組織)」結成大会が開催されたということです。
この結成大会の場で、「立法院推動區塊鏈連線(Parliamentary Coalition for Blockchain、TPCB)」と「産業自律組織(Taiwan Crypto Blockchain Self-Regulatory Organization
Founding Reception、TCBSRO)」というふたつの団体結成が発表されたようです。
前者のTPCBは、立法委員(日本の国会議員に相当)による超党派組織で、ネットメディアの「台湾醒報」が報じた記事によれば、結成大会には許毓仁さんのほかに、同じ国民党の羅明才さん、民進党の林德福さん、時代力量の林昶佐さんなどが参加していたようです。
後で詳しく触れますが、許毓仁さんは以前僕も記事にしました、マネーロンダリングに関する法律についての公聴会のメンバーのひとりですし、林昶佐さんは若い世代から支持を集める新世代の立法委員です。新しい時代の変化に敏感な人たちが集まっているように感じます。
また、後者のTCBSROは、ブロックチェーン業界の自主組織として結成されたようです。「工商時報」の記事によると、結成大会には台湾の大手仮想通貨交換業者であるMaicoinや、「臺灣金融科技協會(台湾フィンテック協会)」の理事長である王可言さんなどが出席していたと報じられています。
ネットメディア「信傳媒」の記事によれば、結成大会には200人以上が参加したとのことです。とりわけ、「美國在台協會(米国在台湾協会、American Institute in Taiwan、AIT)」、「瑞士商務辦事處(スイス商務弁事処、Trade Office of Swiss Industries)、「馬來西亞友誼及貿易中心(マレーシア友好貿易センター、Malaysian Friendship and Trade Centre)」、および100を超える民間企業が参加していた点が注目されます。
台湾内の「産官学」の連携はもちろん、海外との関係構築を視野に入れた組織として位置づけられていることがわかりますね。
なお、記事中には、自主組織の「自律宣言」が読み上げられたと書かれていたのですが、宣言の内容がどのようなものなのかは原資料に当たることができていません…見つかり次第、ここに上げていけたらと思います! →ソースが見つかりましたので、別に記事を書きました(「台湾のブロックチェーン業界の自主組織が「自律宣言」を公表しましたよ!」2018年5月30日加筆)
今回の2つの組織立ち上げの中心人物として挙げられているのが、国民党の立法議員である許毓仁さんです。彼のフェイスブックページはこちら。
この方も1978年生まれの新世代の立法委員のひとりで、世界的に有名な「TED」の台湾版である「TEDx Taipei」の創設メンバーのひとりなんです!
そうした背景もあって、ブロックチェーンやフィンテックの業界では幅広い人脈を持っているようで、台湾の科学系ニュースサイト「INSIDE」に掲載されたインタビュー記事によれば、イーサリアムの創業者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)から、「CryptoCongressman(「暗号議員」かな?)」と呼ばれているそうです。
また、Binanceの創業者である趙長鵬(CZ)さんが今年4月に初めて台湾を訪れたときにも会っていて、こちらに対談記事が掲載されています。
仮想通貨・ブロックチェーン業界で世界的に著名な人々との交流がある人物として、台湾の技術発展と普及のキーパーソンといってもいいのかもしれませんね。
先に挙げたINSIDEのインタビュー記事によると、許毓仁さんは台湾の仮想通貨をめぐって、「加密貨幣專法(仮想通貨法)」の成立と「由業者組成區塊鏈自律聯盟(業界によるブロックチェーンの自主組織)」の結成を目指していると、5月11日の段階で語っています。今回の組織結成は、後者の目的を果たすための動きだといえますね。
許毓仁さんが自らの政策課題としてこうした目標を掲げているのは、仮想通貨市場の急激な拡大と変化に対して、台湾の人々の資産保護を進める必要があるとともに、市場の健全な発展を実現するためであるようです。
そのために、日本、韓国、香港、シンガポールといった近隣諸国の動向を注視しているということも語っていました。日本における業界団体結成の動きも、注目されているようです。
今回の組織結成を機として、「産官学」の多くの人々がブロックチェーンの発展に寄与してくれることを呼び掛けていくとのことなので、こうした場を中心として、台湾での議論がますます広がっていくように感じます。
組織の動向とともに、許毓仁さんのようなキーパーソンの動きも追いかけていきたいと思います!
kazの記事一覧はこちらです。よろしくおねがいします。(下のアイコンからもご覧いただけます)https://alis.to/users/kaz
台湾の仮想通貨・ブロックチェーンの法令関係について、以下のような記事も書いています。
フィンテックについての台湾の新しい法令を読んでみました(レギュラトリー・サンドボックス)
台湾の「フィンテック白書」を読んでみました(ブロックチェーンの方向性は?)