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プランナーは遊技機プレイヤーの夢を見るか?(8)

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  • lastcowboy
  • 2019/04/19 14:08

【あの有名機種誕生秘話】

Content image

 

片道50キロの遊技機(ゲーム)開発会社に転職した自分。

会社には大体6時半か7時には到着していました。

 

理由は簡単で…

「通勤の渋滞が嫌だったから」

 

朝の渋滞に巻き込まれると2~3時間かかってしまいます。

その為には、朝早く出れば渋滞も減るのでは?という事で

30分早くなり…

1時間早くなり…

気づいたら、冬は6時半に家を出て、7時半に会社に着く。

夏は5時半に家を出て、6時半に会社に着く。

そんな感じでした。

 

【あの機種開発当初】

 

しかし、この通勤時間や出張中の新幹線の中が

新しい企画や宿題となる企画を考える、とても良い時間になりました。

※運転しながら考えていたら、一度事故を起こしましたがw

なので、会議等でアイデアが出ないとか、企画の仕事が間に合わない

という事はなかったです。

 

転職して10か月ほどしたある日、某メーカーから新しい版権の

パチンコ開発の話が来ます。

8月31日にキックオフミーティング。

作者は有名。

漫画のネームバリューはまぁまぁ。

(自分は大好きでしたが)

アニメ等の動画は一切なし。

 

当初はリユース機として出す予定でした。

※リユース機とは?

 パチンコの自社機種を回収して、その中で再利用可能なものを集めて

 別の機種を作る事。

 ゲージや一部役物等の機構等を利用するので、環境に優しい反面

 台数は見込めない。

 

液晶を縦型に置き、その両サイドにベルト(ドラム)機構を付けて…

という指定があり、それに即して3か月で企画構想を練りました。

それをメーカー内の役員会議で出した所、メーカーの社長から…

「これ私が好きで取った版権なんだから、新機種としてもう一度作り直して(泣)」

というどんでん返しがあったのが12月の年末。

 

そこからもう一度、ゼロから作り直します。

今まで自分の師匠のWさんの考えをトレースして企画を立てていた自分でしたが

この時は、何故かWさんの考え…というのはありませんでした

 

版権の原作者の書籍を片っ端から読む

作者さんの漫画やインタビューを片っ端から読む

(原作者さんが好きだったので、漫画は全部読んでいましたが、改めて読みました)

その中から、コンセプトを決めます。

コンセプトは「〇ぶけ!」(奇抜な事をやれ!って意味ですw)

同時にゲームの構築(大枠の演出プラン)が見えてきて

それに即したゲームフローを作ると同時に、コンセプトに即して

新しいゲーム性を考えていきました。

 

この時、企画を考えるに際して、自分が決めたルールがありました。

 

1・群予告は使わない(使い倒されているから)

2・デフォルメキャラは使わない(世界観に合ってないから)

3・バトル演出はしない(北斗の拳でやっているから)

 

コンセプトと演出フローと同時に、映像が全て見えました。

そこでリーチ後予告等、一部キーポイントになる新しい見せ方の

演出は一旦は自分で絵コンテを描きました。

(棒人間ですが…w)

その後有名になった「キ〇〇予告」は初期の頃からすでに

自分の中で企画しました。

 

【企画のアプローチ論】

 

この時、もう一つ大切にしたのが…

「作者の心情になる事(自分が作者に成り代わる事)」

「作者が遊技機に詳しかったとして、どう落とし込むか?」

 

ここで今の開発者(というかここ10年間ですが)は大きな勘違いをしています。

大体メーカーにお伺いすると、メーカー担当者はその版権が「好き」と言います。

大ファンを豪語します。

しかし、自分はいつも言います。

「あなたのそのファンとしての感性は、全てのファンの人の感性ですか?」

ファンは一つの作品に対して、色々な好きな面を持っています。

それは多面的であり、ファンの数だけ好きな要素が違うと感じています。

ところが、ファンを豪語する開発者の心理・心情は一面的な部分に過ぎず

その思いが強ければ強いほど、作品に偏りが起きます。

そして他のファンが打ってみると…

「なんじゃこりゃ!?」

となるパターンがとても多い。

(たまにはドンピシャではまる場合もありますが)

 

図にするとこうなります。

【図-3:今の遊技機開発者の考え方と、売れる開発者の考え方の違い】

Content image

もちろん全ての版権モノでこれができるわけではありません。

資料が少なかったり、開発者が提案しても、オタク気質のメーカー担当者が

エゴ(自分の好きなもの)を押し付けて、変更させられた場合など…。

 

あともう一つ「作者の心情になりきる」という上で、とても参考にしていた

書籍(漫画)があります。

それは…

 

Content image

里見桂先生、原作:愛英史先生の漫画「ゼロ」です。

興味のある方は是非読んでみてください。

これは本当に参考にさせて頂きました。

(今でも何度も読んでいます)

 

【今までにない新しい高確演出】

 

さて、企画が進んでいた所で、思わぬ状態になります。

元々自分が考えていた(原作者が考えていたであろう)主人公のイメージは…

・普段はやんちゃ好きでありながら、風流を好む快男児。

・戦いになると悪鬼羅刹の如く、縦横無尽に戦場を駆け巡る。

という

「男も女も惚れる漢(おとこ)」

という所を大切にし、

 

通常中→普段の主人公

リーチ予告→キ〇ル予告(原作でも怒った時、喧嘩になる前に行う動作)

SPリーチ→日常のやんちゃな行い、喧嘩等で構成

という、2面性の魅力を演出フローそのものに盛り込んでいたのですが…

 

当時パチンコの「北斗の拳」がヒットし、メーカーの営業から

「バトルものにしなさい」

と指定が来てしまいました。

ただ、この時メーカーの開発者さん3名がとても良い方々で

メインだったKさん、デザインだったMさん、その他企画だったYさんw

特にKさんは、あまり演出には口を出さないで、とにかく攻めた

スペックを考えている、根っからのメーカー人であり、ギャンブラーでした。

(プライベートでもかなりのギャンブラーでしたがw)

 

コンセプトは「〇ぶけ!」。

これをベースに今までにないスペックをひたすら考えていました。

それに即した、かつ版権にあった高確時の演出にするにはどうしたらいいか?

メーカーの人に「1週間ください」と言い、同時に会社にも

「会議室にこもるので、余計な口出しは無用です」

と言い、実際に会議室にノーパソ、ホワイトボード、コミック全巻をおいて

引きこもります。

 

そこで書き上げた演出及びフローが、高確状態(ないしは潜伏状態)、低確状態の

「い〇さモード」「し〇〇りモード」演出でした。

フローだけでなく、演出も自分で棒人間の仮絵コンテを作りました。

(もちろん、その後にプロの絵コンテ屋さんに綺麗に青書描きしてもらうのですが)

 

そのフローと演出プランを持って、メーカーに打ち合わせに行きます。

メーカーKさん「ここで小当たり演出を入れたいと思うのですが、どうしたら?」

自分「それならこんな演出はどうですか?」

メーカーMさん「デザインはこんな感じで…で、Yさん、ここの信頼度は?」

メーカーYさん「え~?そんなのあとで考えれば良いんじゃないですか?」

他の3人「……」

とこんな感じの打ち合わせでしたw

 

その後、ROM容量の問題から仕様を削る作業、そして開発に至るわけですが

この後、とある事件をきっかけで、一旦会社を辞めようと思うのです。

開発そのものは別の方にディレクションを引き継ぎ、

自分は新しい、別メーカーさんの開発を行う事になります。

 

辞めようと思ったのを留まったのは、その新しい開発のIPが

自分がやりたかった&ご指名だったからですがw

 

そして先に出来た機種は、当時そのメーカーでは27,000台くらいが限界だった

販売台数が13万台売れる、大ヒット機種になりました。

 

Content image
※何度も言いますが、画像はあくまでも同じ時期に出た遊技機という事でのイメージです(多分w)

 

正直、この時の企画開発は、メーカーの担当者さんと開発が

クライアント、下請け、という立場ではなく、それこと同じ立場で

一緒になって良いものを作って、当時北斗の拳が売れていた状態の

それこそ「負け戦」を戦った結果だと思っています。

※プロジェクト開始時、メーカーのKさんから

 「クライアント、下請けっていう関係性や態度は止めましょう!」

 と言って頂きました。

 

ちなみにメーカーのKさんは、機種が完成した後の会議で

営業から

「何故群予告はないのか!」

「仕事人のようなミニキャラがいないと売れないだろ!

「北斗みたいなバトルものじゃないと、売りにくいだろ!」

と言われて…

 

「聞いたふうな口をきくな~!」

 

と怒鳴ったとか、怒鳴らないとか…。

 

その後、師匠のWさんから「東京で飲まないか?」と誘われます。

東京で二人で飲んでいた時、Wさんから

「「〇の〇〇」企画したんだって?」

どこから聞いたのか?知っていました。

「凄い売れたよね。あの発想は自分では出せない。完全に俺を超えたね…」

そう言われた時は、嬉しくて漢泣きしました。

 

(※次回【紹介会社&ヘッドハンティング会社の表と裏】に続く…)

 

 

 

 

 

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ベンチャー企業CEO/VR Contents Executive Producer/Gaming Visual Producer & Director/地方創生請負人/ナレーター/ネコ好き

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