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  • 2021/12/25 23:54

 私は物心つくかつかないかの頃から「口から先に生まれた」と言われるほど、起きている間は喋り続けていた。そう作られた機械みたいに、自分が五感から得た情報や経験は全て言葉にしないと気が済まなかった。その特徴は今も残っているのだろう、私が生きているということを言葉にしたい。というか、せずにはいられない半ば生理的なものでもあり、ずっとしないでいると精神的便秘を起こす。それが正しいとかではなく、ただそうであったこと、その経験をした総体が私だったということを記録していきたい。生まれてきたという借りを、言葉で返しているような気がする。

だから私が文章を書くのは、私が生きていることについての報告のようなものだとも言える。誰かに義務づけられているわけではなく、勝手にそう思っている。自分に課しているのは、報告の内容が本当であることだ。読んだ人が、何かしら私にとっての本当のことなんだな、と感じてもらえる状態にすること。何かを書き留める時、書き留めたいと本当に思ったことは確かにあり、できるだけそれを伝えられるよう、わかりやすい言葉を探す。正確に伝わらなくてもよいが、これは本当なんだな、ということだけは伝わらなくてはいけない、そんな行である。平気で書き直したりもするが、前提として他者に読まれるものでないといけない。自分だけがわかっていればよいメモのままではいけないし、そのままでは自分でも何が言いたかったのかわからない。

 残念ながら私が書く内容は役に立つ知識とか、感動的な物語とか、笑える話や目が覚めるような発見などではない。そういうものがあった方が読む側としてはよいのだろうが、私にとって本当であること以外の目的を設定すると、途端に書けなくなる。私として生きていること、というのは私がこれまで培ってきた偏りであり、類型に収まらないところもある、私だけの歪さである。主語が大きい文章は憚られるが、人は不自然なもの、人工的なものや抽象的な概念に美を見出し、自然である自分の肉体や精神をその美に近付けようとしがちであると思う。完全な球体などの幾何学的な存在、極端な純粋さなどである。研究対象としてならそういった不自然さを扱うのはいいと思うが、自らの存在自体をそういった不自然なものに近付けようとしたり、完全に理解できるわかりやすいものにしようとすることには、強い拒絶感を持っている。

例えば自分を社会のクズだと思っていたとして、言葉のイメージだけに自分を収めようとしてはいけない。具体的にどう反社会的で、どう役立たずで、人でなしなのか、生きている限り分析し続けなければならない。突き詰めればよいというものではないが、少なくとも自分や他者にそれぞれの特殊性や、個性があるということは忘れてはいけないのだと思っている。特殊性や個性の内容は実際のところどうでもいいし、その内容にこだわったり優劣をつけるのは本当につまらないことだが「違っているという意識を忘れないことへのこだわり」だけは必要だと思う。良いも悪いもなく違っているのが自然なので、不自然に振れがちな人間としては、自然に振り返す意識がないといけないからである。文章を書くことで確認ができる。

 書いたものを知らない他者に届く可能性があるネットで公開するのは、評価されたいとか以前に、自分の存在を発見して欲しいからだ。既に知っている人たちは過去の自分との触れ合いがあるので、自分に対しても固定的なイメージを持っている。それを改めてこちらから眺めて「あれが自分か」と思っていると、それは現在の自分からは乖離していくばかりである。自己イメージすら、いつの間にか大部分が想像になっている可能性があるので、知らない他者にみてもらうことで、自分の存在も含めて現実を見直すことができるから、でもあるのではないかと思う。

 SNSが面白いのは、その人だけの体験が共有されているところだ。他者の文章や表現に惹かれるものも、その個性による。内容は「その人にとって本当のこと」であればなんでもよく、したくてしてること、好きなこと、面白いと思った、腹が立った、嬉しかった、悲しかった、ことでさえあれば面白い。面白さを感じるのは「取り返しのつかなさ」の為である。何かを経験するということは、あらゆる変化に身を置くことであり、その変化は自分がしたことも含め、不可逆な時間の上では取り返しがつかない。私が遭遇する時間や場所や状況といった、一期一会的な状態における変化を、情報として観察することが経験だ。同じ情報がやってくることはなく、経験はひたすらに上書きされていく。変化は観察者にとってのものでしかない。その場に身を置く、ある視点を持つ、そういうことをして初めて変化が観測される。自然は観察されようがされまいが変わっていくだけであり、変化に感慨を持つのは、限りある時間を意識している観察者だけである。

 その人にとって本当であることには、その人だけの偏りや特殊性ゆえの、絶対的なわからなさがあるのだと思う。わかりやすさはある程度は必要だが、洗練させ過ぎてわからなさがなくなっては、魅力もなくなってしまう。だから私は他者の表現に、不可解さを求めてしまう。それが未熟さゆえのものならいずれわかるし求めはしないが、自分と異なっていることから来る不可解さ、気持ち悪さ、不気味さなどは個性であり、それを味わいたいと思う。

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