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みんな自分の顔知ってるのか

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  • 2020/04/02 05:10

 洗面所で手を洗うなどして何気なく自分の顔を見る時は、写真を見るようには見ない。大体自分でマシと思う部分だけを、マシに見えると思う角度で素早く見る。どこもマシと思えない時は、全体をぼやかして見るかそもそも見ないようにする。全体像や各部の詳細は知覚すらしていない。実体と認識のズレがある内は、写真や動画で客観的な自分を見ると、恥ずかしかったり目を背けたりしてしまうが、客観視を続けることでこのズレが埋まっていき、やがてそのままに見られるようになるのだろう。あとは心の底から顔などどうでもよくなった場合も。

 同じことは外見だけでなく内面でも起こっていると思う。普段自分を認識する時には自分でマシと思う部分だけ見ている。何かを表現することで無自覚だった部分を外に出すことができ、他者に見てもらうことで、初めて自分の内面を客観的に見ることができるのだと思う。よく「自分に正直に」というフレーズを目にするが、この「自分」を自分でどれだけ知っているのか、都合よく思い込んでいないかなどということも、表現することで明らかになっていくのであり、こちらはできるだけ、どうでもよくなりたくないなとは思う。

 表現とは何かを知る為にすることであって、他者に理解や共感を求めることではない。知るのは表現をした自分であり、表現を得た他者の両方である。した方はすることで自分を知り、得た方は「自分とは異なるものがある」ということを知る。だから全ての表現は問いに過ぎないのであって、評価したり拒絶したりするのも自由だが、意見を押し付けたり、決めてかかったりするのは間違っているのだと思う。

 また表現の話ですか。はい。表現の目的の話でした。本当は社会について、また「うそ」というものについて、命を感じたり与えられたりすることについてなど、自分が興味を持っていることについて、どう思っているのかを先に書くつもりだったのが、色々起こることを目にしているとまた思うこともあって、情報をある程度遮断しないと書けないこともあり、なかなか難しいものである。ただ非常時には書くこと自体が心を安定させることでもあるので、何か心に起こった時はそのことを書くのがいいとは思う。そして知ってもらい得る為に表に出しておく。

 生命に危険が迫っていない時なら、ネットを見るのは楽しいものである。面白いものが無いかなと、町を歩き店を冷やかす感じに似ている。情報を自分の生活に取り入れたり、暇をつぶしたりできる。情報は商品にもなっているが、文章を読むというのはどこから始まるのか、目に入った文字が脳内に物語を喚起した時からかなどと、どうでもいいことを考えたりもできる。だが今は危機的状況に関する事実と、社会や政治システムの不具合、危機的状況が浮き彫りにした差別意識ばかりだ。そういうものばかり目にしているだけでしんどくなってくる。ここでも事実について思ったことを書いているに過ぎないのだが、しんどくない表現を少しでも増やせたらと思う。

 志村けんは自分が体現できる面白いものをストイックに追求し、多くの人に受け入れられた人気者である。一方で女性の裸をテレビに出し、結果的に男性の女性へのセクハラを助長するコンテンツも作っていた。両方が志村けんである。テレビを観なくなって久しいので晩年の姿は知らないが、バカ殿は当時から本当につまらなかった。何を一人で勘違いしてるのだろうと思った。

 子供の頃に好きだった理由は、動きの笑いとギャグ、お色気の両方にある。女体を見る機会がほとんどなかったので興味があり興奮もした。だが見ているのが女体であって、女性そのものではないということ、嫌がる女性は面白くないと否定するようなセクハラがあり、人前でセクハラをすることすら「面白さ」だったということ。それを見た子供の自分は、女性が我慢しているとは露ほども思わず、男性が「偉くなれば」馬鹿をやっても許されるといった、歪んだ価値観にさらされていたと思う。バカ殿がつまらなかったのは、実際に女性に恋をして、実体について考えるようになったからだと思う。

 シスヘテロ男性の欲望の対象としての女体の表象表現は、女性の実体から切り離されたまま妄想の集合を得て長い年月をかけて多様化、深化し続け、スナック菓子のようにバラエティに富んだ商品になった。対象が意識や人格を持った人間であるという意識は無くなり「ストレスにさらされているから」「暇でつまらないから」「いいことがないから」といった理由で、ただ気持ちよくなる為に消費されている。快楽には依存性もあり、需要があるなら供給側は整えて応じるだけだとばかりに、わざわざ「フィクションですよ」「妄想ですよ」とことわることもなく、意図のない自然発生的なもののように見せている。

 特に日本では性教育もされてこなかったため、男性の女性に対する認知の歪みは当人に自覚なく矯正されることもなく「そういうもの」として定着しているようである。これは相当に恐ろしい。上記に何を一人でと書いたが、相当数の男性が同じように勘違いしており、志村けんも当時はその一人に過ぎなかったんだろうとは思う。

 話が逸れたが、自分の好きなものを皆が好きなわけではないということ、自分の嫌いなものを好きな人もいるし、許せないと思うことを、正常なものだと思いこんでいる人もいる、いるなあと思ったということを、書きたかった。志村けんの人柄やセンスについて語り得るほど自分は何も知らない。だが、志村けんの死を評価して公言した知事がいる。そのことに怒りと不安を覚えたので、以下はそのことについて書く。

 他者を評価することの対象は本人が望んでした行為や表現に限られるし、評価されること自体も本人が常に望んでいるわけではない。死は、その大半が自発的な行為の結果ではなく、状態であり事実である。だから他者の死を評価して語るなど、知的にも最低の行為である。仮に本人が望んで死んだのだとしても、他者の死を自分の理解できる価値観に押し込めることは、他者の生に対する最も無礼な考え方である。

 権力者が堂々と公で他者の死を評価していた。「自分以外の人たち」「同じ国に生きる人たち」「同じ星に生きる人たち」「国という概念や制度」の為に生きて死ぬのが正しく美しい、などという考えは、間違っている。当人が(外部からの影響により)そう思っていたとしても、それは数ある生き方から選ばれたひとつに過ぎず、他の生き方より正しい訳ではない。そもそも正しさなどない。正しいと思っているのは当人だけなのである。

 他者の生死を自分に都合よく解釈する精神、簡単に言えば他者の命を雑に扱う価値観の持ち主が、自分の行動に関わる決定ができる権利を与えられている。この事実に不安な気持ちにさせられる。同じような精神、価値観の持ち主なら安心できるのだろうか。あなたの命を評価できると思ってる人が、あなたの生活を左右する決定ができるんですよ。やばくないですか。ともし周りにいたら訊いてみたい気もする。とてもめんどくさい事ではあるが、やはり直視して考えないといつまでたっても不安である状態が変わらない。いつか税政だけは、どこに住んでいても自由に選べるようにしたい。飛躍した。

 表現についての話に戻る(戻るんだ)。自分にとっての理想的な表現はジャコメッティだ。アルベルト・ジャコメッティは「自分が今見えているように描く」ことにこだわり、終日他人の肖像画を描いては描いた上に描き直し「悪くなった」と絶望し続け、像はどんどん削って小さくなり消え失せる寸前になったり、その前に癇癪をおこして作品を破壊したりしていた人である。「不可能だとわかっているのに、どうしてもそれがしたい」というのが、理想的な創作意欲なのではないか。それ以外の行為に何の意味があろうか。極端。

 それはまあ意味はあるのだが、初めてジャコメッティの作品を観た時はそのストイックさに感動し、その業というか怨念のすさまじさにあてられて目眩がした。そして初めて自覚的に、他人に尊敬の念を抱いた。ちなみに「自分が今見えているように描く」というのは、もし自分のリアルタイムの視覚情報を映像記録して出力できるような装置が発明されればOK!というものではない。絶対に不可能なことは分かった上でやらずにはおれないということである。

 何かを表に出した瞬間、例えば何かを書いた瞬間、書かれなかった何かも同時に現れてくる。書かれなかった理由には、言語化する技量がないということの他にも、無意識に表に出したくないと思っていた、ということもある。何故表に出したくないのか、倫理的に表に出してはいけないと思っているのか、まだ理解できていないのか、つまらない人間であると思われるのが恥ずかしいのか。それとも自分では理解し得ないと分かっているような何かを、感じているのか。自分では理解し得ないと思っていることを理解しようとすることには、盲点にあるもの、ブラックホールの本体を描こうとするような、欲望をかきたてるものがある。

ドキドキする情景を現実化する時の、すり合わせの作業は結構好きである。

だがドキドキする情景を考える余裕は、今はあまりないのかもしれない。

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