トークン設定を機に、涼太は自身の夢を見つめなおす…
「時計技師」になりたい。
小さい頃に通い詰めた時計博物館。
技術が奏でる時のハーモニーに幼いながらに胸を打たれた。
秘めたる夢をトークンに託すかどうか、決断の時迫る。
6.母の一言
とりあえず、第三トークンの設定もひとまず終え、
ほーっと息をなでおろす。
その時、なぜか先生と目が合った。
俺をじっと観察した後、少し安どの表情を浮かべていた。
その意味が、当時の俺には分からなかった。
しばらくして、教室に賑わいが戻ってくる。
みんな、トークン設定がひと段落したのだろう。
わいわい、ガヤガヤ。
教室の賑わいが次第に明るさを増す。
その様子を見た先生は手をパンっと叩き、
「みんな大体決まったみたいだな。これは、宿題でもあるから、親とは一度はこの件について話し合うように」
皆を眺めるようにしながら、先生は話を続ける。
「そして、大学に進学する者・企業に就職する者、色々な道に分かれると思うが、みんなこのトークンの価値を向上させることに死力を尽くすことになると思う、黒板の図を見てくれ」
そこには、白線で大きな棒グラフが横に2つ描かれていた。
「上のグラフには、
これから大人になってお金が掛かるものの内訳が書いてある。
まあ、だいたいは家賃と食費だな。
そして、注目してほしいのが、下のグラフだ。みんなの個人トークンの今の平均の価値はこんなもんだな」
必要な金の半分以下か…これじゃ生活できないな。
「足りない部分は、企業などのトークンを仕事してもらうことで
埋め合わせていく。
先生が何が言いたいか分かるか?」
確実に俺に目線を合わせて、質問してきていた。
俺は、そっと答える。
「個人トークンの価値を増やせば、自分の力だけで生活できる」
答えを聞いた先生は、正解と言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。
「その通りだ、みんなこれからどんな道を歩もうとこの事はしっかり頭に入れておいてくれ。大学に進む者は、その価値をしっかり磨いてこい!」
まあ、俺なら出来るでしょ。
自信はたっぷりだった。
学校から帰宅して、一応母さんにトークンのことをしゃべった。
時計トークンの事なんか寝耳に水だろう。
「あら、そうだろうと思っていたわよ」
この反応に、逆にこちらが面食らってしまった。
「気づいてたの?」
「そりゃ、気づくわよ。あんだけ、毎日時計博物館に通って、いまでも時計のパンフレット本棚にこっそり隠し持ってるじゃない」
今まで、隠してたことが逆に恥ずかしくなった。
それでも、母に一言
「俺、時計技師になるわ」
力強く宣言した。
「がんばんな」
その一言にどれだけ背中を押されたか。
それから少しして、他愛のないことに話題が移っていった。
和也はバスケの国体選手だから、既に余裕で生活できるほどの個人トークンを有していること。
これから、どんな大学に進みたいかのプランの事。
担任が、やたらトークンの授業に熱が入っていたこと。
母は、俺の言葉に呼応するように
「うん、うん」と頷きながらも
「あんたはあんたの道をすすめばいい」
力強い一言を締めくくりにくれた。
俺の意志はさらに固くなった。
トークンを決めただけだけど、なんだか少し大人になった気がした。
次回もお楽しみに! 第七話へ