東京に来てからは始めて見る雪であった。
「東京じゃこんなんでニュースも騒ぐんか。」
私は内地の人たちの雪に対する様子を直に見てやろうと窓を開けた。
吹き込んだ北颪に予見せず身震いした。
「くっ、さむっ。俺も東京に馴れちまったのかなぁ。」
取り敢えず、気散じにちょっと都会の騒擾でも俯瞰してやろうと思い、コーヒーの袋に手を伸ばした。
「あぁ、そういやこれ、母ちゃんが送ってくれたコーヒーだっけ。」
この時始めて、私は郷里の家族のことを想った。
「今年は俺がいないっけ、母ちゃんが雪掻きすんのかな?そろそろ雪の声が聴こえ出す頃だもんな。」
雪の声が聴こえ出すと、それは屋根の雪を降ろせという合図で、その役割は足の悪くなった父に代わって、しばらく私が努めてきたのである。
「今年は帰れそうにねぇしなぁ。電話でもしてみるか。」
母に電話を掛けた。
「父ちゃんの頭が雪になってきた。」
と笑っていた。