今日は2018年4月25日です。
前回の記事:中国のブロックチェーン パート1にハートマークが付いている事を発見した時は嬉しくて涙が出そうでした。
読んで頂いた方々、ありがとうございました。
前回の記事では、中国のブロックチェーンについて考えるのであれば、"通貨"と"技術"を別けて考える必要がある、と申し上げました。
つまり、中国国内で"通貨"は規制の対象であり、ブロックチェーンを使用した暗号"通貨"を扱いたい場合は、規制を回避したり、規制の変更を待つ必要があると言うことです。そして、その原則を守る限りにおいて、中国のブロックチェーン"技術"は今後も発展を続けることが可能となっています。
さて、発展を続けることが可能、とは言っても、中国国内でブロックチェーン"技術"が見向きもされていなければ、実際の発展は起こりません。
そこで今回は、中国政府がブロックチェーン"技術"にどのようなスタンスをとっているのか、いくつかの事例を簡単にご紹介してみたいと思います。
2018年3月28日、中国の工業情報化部(中国での"部"は日本での"省"に該当します)は、ブロックチェーンと分散式台帳技術の中国国内における標準規格推進委員会の設立を行うと発表しています。
http://www.miit.gov.cn/n1146290/n1146402/n1146440/c6105158/content.html
ここで注目して頂きたいのが、発表された文章の中では、ブロックチェーン技術等の国際標準規格についても、その制定を進めるべきだと言及されていることです。
オレンジ色で示した中国語の"走出去"(走出去战略)には様々な意味が含まれており、たとえば鄧小平が唱えた"走出去"は、社会主義思想を海外に広める狙いがあったとされています。
しかし、現在の中国では"走出去"という言葉を使用し、海外投資や輸出等によって、中国政府・中国企業の国際競争力を高める狙いについて語られることが一般化しており、ブロックチェーン技術の国際標準規格制定についても、同じ狙いが存在するものと考えられます。
つまり、中国政府は、ブロックチェーン技術の国内標準規格を策定することによって、ブロックチェーン産業の中国国内での発展を後押ししたいと考えているだけに留まらず、ブロックチェーン技術の国際標準規格の制定を主導することによって、今後の国際的な影響力をも高めたいと考えていると言うことです。
中国政府が、"通貨"としてのブロックチェーンを規制する一方、"技術"としてのブロックチェーンを大局的な視点から眺めているであろうことは、上記以外の事例からも見て取ることが可能です。
たとえば、IPRdailyが発表した《2017年ブロックチェーン国際特許取得企業ランキング》を見ると、中国の中央銀行にあたる中国人民銀行は、傘下に連なる複数の機関を通し、ブロックチェーン関連の国際特許を2017年に世界で最も多く取得していることが分かります。(国別取得数は中国が1位、アメリカが2位)
http://www.iprdaily.cn/news_18252.html
また、中国では、2018年4月9日に杭州ブロックチェーン産業パーク(杭州区块链产业园:China Hangzhou Blockchain Industrial Park)というブロックチェーン技術の発展を促すためのハイテクパークがオープンしており、そこに設立されたブロックチェーンプロジェクトを支援するファンドには、中国政府系のファンドから最大30億元(約510億円※)が投資されるとされています。※1元/17円として計算
https://zj.zjol.com.cn/news.html?id=912625
おそらく、去年起こった暗号通貨(ビットコイン等)の隆盛は、中国にブロックチェーン技術の"危険性"と"可能性"を鮮烈に提示したものと思われます。
もし仮に、将来、ブロックチェーンが世界の基幹をなすテクノロジーとなった場合、中国がその取り組みを怠る機会損失は計り知れません。
もともと、中国政府は、AI(人工知能)、ビックデータ、生体認証、画像認識、クラウド・コンピューティング、クリーンエネルギー等の先端テクノロジー分野に対して、積極的な投資と産業促進の取り組みを行なっており、当然、ブロックチェーン技術へも一定の取り組みがなされていました。
しかし、2018年現在、中国政府が考えるブロックチェーン技術の"可能性"は以前よりも大きくなっているのではないでしょうか。
そして、その他の先端テクノロジーと並び、ブロックチェーン技術もまた、中国政府の成長戦略において重要な位置を占めるものとなったと考えられるのではないでしょうか。
規制によって"危険性"をコントロールしつつ、投資によって"可能性"を育む、これが中国政府のブロックチェーンに対するスタンスとなると考えられます。
前回の記事でご紹介したファーウェイ(HUAWEI)のブロックチェーンホワイトペーパーの中では、このような言葉が並んでいます。
2018 年,区块链及相关行业加速发展,中国将领跑全球进入“区块链可信数字经济社会”,我们正面临区块链重大的产业机遇。
2018年、ブロックチェーン技術とそれに関連する業界はさらなる発展を迎える。そして中国は、世界が突き進む"ブロックチェーン信頼経済社会"の先頭を走ることになる。我々は現在、ブロックチェーンという大きな産業チャンスを目の前にしているのである。
区块链技术尚未成熟,从国内外的标准推动来看,区块链标准在 2017 年有推进但速度较慢,这极大影响了区块链的产业节奏;同时安全一直是区块链技术的核心,但涉及到算法,系统等的标准问题仍然存在。因此,建议以国家机构牵头,借助产业的力量,通过联盟加速区块链标准的制定,特别是跨链、加密算法等重点标准在国内的落地,占领区块链产业在国际上的话语权。
ブロックチェーン技術は未だ成熟しているとは言えない。標準化を狙う2017年の国内外の動きを見ても、そのスピードは比較的に遅く、それはブロックチェーン産業の発展に大きな影響を与えている。また、安全性はブロックチェーン技術の核心となっているが、アルゴリズムやシステム等の標準規格に対する問題は依然として存在している。したがって、中国の国家機構が主導し、企業間のパートナーシップ等を通した標準規格の制定を加速させることによって、ブロックチェーン産業の発展を後押しすることを提言したい。特に、クロスチェーン取引や暗号アルゴリズム等の重要な標準規格を国内で制定することは、国際的なブロックチェーン産業に対する中国の大きな影響力へと繋がる。
当然、国際標準規格というものは、何処かの誰かが作ろうと思って簡単に作れるものではありません。
そして、何処の誰が主導しようと、国際標準規格というようなものが出来るのであれば、それは前提として、ユーザーに認められるものであるはずです。
僕は、当初、非中央集権的であることがブロックチェーン技術の一種のアイデンティティだと思っていましたが、どうやら世界には色々な考え方があるようです。世界というのは、面白いですね。
極論を言ってしまえば、上記のような中国の視点は、世界というマーケットを舞台にして、ブロックチェーン技術を一つの武器と捉えているということではないでしょうか。
実際には、世界と戦うための"武器"としてではないブロックチェーン技術の活用も、中国国内では模索されています。
たとえば、ブロックチェーン技術の持つ改ざん耐性に注目し、貧困者向け寄付金等のお金の流れに透明性を持たせる、ブロックチェーン技術を公益分野で使用する試みは、中国国内でも注目されています。
ブロックチェーン技術を使用すれば、そのお金が当初の目的どおりに使われているのか、資金の流れを透明化することが可能となるだけではなく、その透明性を証明するコストをも削減できるという視点は、中国のみならず諸外国でも注目されているものと思われます。
次のパートでは、中国企業等のブロックチェーン技術を使用した取り組みを簡単にご紹介してみたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
唯の蛇足ですが、パート3(完)を書きました。
現状の中国ブロックチェーンの大まかな枠組みの振り返りはここまでにして、これからは、より個別の案件にフォーカスしようと思います。