ある時、当時住んでいたラタナキリからバイクで2時間くらい行ったところのジャングルで1人の女性が発見されたという話を聞きました。
彼女は10年以上ジャングルで1人で生活していたようで、ジャングルガールと呼ばれていて、当時カンボジアではちょっとした騒ぎになっていました。
彼女が長年の間どうやってジャングルで1人で暮らしていたのかが地元の人たちの間で話題になっていたのです。
森の中で虎と生活していた、精霊と過ごしていた、誰かに監禁されていた、などいろいろな噂がありました。
ジャングルガールの名前はロチョム・プニンといいます。
そんな噂が私のところにも伝わってきて、好奇心にかられて彼女に会いに行くことにしました。
彼女が発見された場所はベトナム国境にすぐ近くの場所で、やはりジャライ族が多く住む場所です。
発見されたロチョムを、18年前に行方不明になった実の娘だと言って引き取った家族がいました。警察官のローさんという方です。
(後になってなってわかるのですが、ロチョムは行方不明になった彼の娘とは別人でした)
ロチョムに会うためにまずローさんの家に行きました。
ローさんの家に行くと、突然訪れた私たちを歓迎してくれて、すぐに家の裏の森からロチェムを連れてきて会わせてくれました。
彼女は4つんばいで歩いてやってきました。
まったく言葉は話しませんでした。
森のほうが居心地がいいらしく、目を離すと森の中で1人でいることが多いそうです。ただ、家からはそんなに遠くまでは行かないそうです。
ロチュムは、私が持って行ったビスケットをおいしそうに食べてくれました。
左手首には何かが食い込んだような傷があって痛々しかったのを覚えています。
ローさんによれば、彼女は森の中では精霊のような謎の生物と一緒に暮らしていたといいます。
そしてロチュムがこんな状態になったことも、精霊の意思ということで肯定的に考えていました。
そして、言葉も話せない彼女ですが、彼女が普通の生活を送れるように精霊にお願いしたい。
そのためにベトナムにいる有名なジャライ族の魔術師に会いに行きたいと言っていました。(後にローさんと私たちは友達になり、一緒に魔術師に会いに行くことになります。今後その話も紹介します)
そしてローさんが、”一時期ロチョムが大量に絵を描いていた” 教えてくれました。
彼女が森で発見されてローさん一家に引き取られた後にも、短期間森に失踪したことがあるそうです。
ですが9日後に自力で家に帰ってきたそうです。
その時突然、地面に指で絵を書き出したのだそうです。それも大量に。
そこで、両親が紙とペンをわたしたところ、次々と絵を描いたそうです。
しかし、それは数日の間しか続きませんでした。
その期間が過ぎると、線をぐちゃぐちゃとひくだけになり、一切絵を描かなくなったそうです。
とても不思議な話です。
ローさんに、そのときの絵は残ってる? と聞くと、ボロボロの紙やカレンダーの裏に書いた絵をもって来てくれました。
普通に上手い絵です。
彼女が森の中でどんな生活していたかのヒントになるような絵もありました。
ローさんは、”その絵に興味を持ったのはあなただけだからもらってほしい” と言ってくれたので、その絵をもらうことにしました。
ロチョムは森の中で、様々な困難を経験するうちに、その辛い記憶を心の内側に封印してしまったのだと思います。
それを10年以上の長期にわたって続けていく中で、ついには言葉や人間らしい振る舞いまで忘れてしまったのだと思います。
ですがその心に封印した記憶が数日間だけ何かの拍子に漏れ出して、それを絵という形で表したのだと思います。
とても考えさせられまいた。
次回は、その絵を紹介したいと思います。
参考
ロチョム・プニン (wikipedia)
2年くらい前に、『世界の何だこれ!?ミステリー』という番組で彼女のことが紹介されたそうです。[→番組概要]
(彼女のその後を知りたくてgoogleで "ロチョム” で検索してみたら、この番組がyoutubeにアップされていたものが見つかりました。ロチョムのことを特集していてとても懐かしい気分になりました。10年前と比べてラタナキリは随分近代化していました。そして当時彼女の父親だと主張していたローさんがすでになくなっていと知って驚きました)
これまでジャライ族について紹介した記事です🐱