ニーチェが泣くとき
アーヴィン・D・ヤーロム 著
金沢泰子 訳
西村書店
これは、事実をもとにしたフィクションです。
舞台は1882年のヨーロッパ。
オーストリア・ウィーンの著名な医師 ヨーゼフ・ブロイアー は、バカンス先で ルー・サロメ と名乗る若く美しいロシア人女性と出会います。サロメは、偉大なドイツ人哲学者 フリードリッヒ・ニーチェ の「絶望」を治療して欲しいと懇願します。サロメはニーチェが今にも自殺しそうだと言い、サロメの魅力に屈服したブロイアーは、つい承諾してしまうのでした。
ニーチェは複数の病気を持っていました。治療を拒むニーチェでしたが、偏頭痛発作で滞在先のホテルで倒れ、報をうけたブロイアーは往診するのでした。応急処置を済ませ、落ち着いたニーチェは、ウィーンよりもっと暖かいイタリアへ旅立とうとします。サロメとの「絶望を癒す」という約束をはたせなくなると焦ったブロイアーは、引き留めるために医師と患者の立場交換の提案という奇策に出るのでした。
ブロイアーは、妻とうまくいっていないこと、かつての若い女性患者 ベルタ への想いをニーチェに語りながらもニーチェをコントロールしよう、心に入り込もうとしますが、話すうちに本当に自分自身が患者になってしまいます。老い・死への恐怖、毎日の同じことの繰り返しから自由になりたいとの想いを訴えるのでした。ニーチェはそんなブロイアーに対し、練ってきた思想を伝えます。力への意志、永遠回帰...。話すほどに二人の仲は深まり、最後には...。
470ページもあり、大作です。でも、ブロイアー医師とニーチェ教授の会話が大部分なので、読みにくくはありません。中だるみがありますが、最後の80ページは静かに盛り上がります。「そう来たか!」という仕掛けがあるのです。
筆者は医者なので、医学的な裏付けがありとってつけた感、取材感がありません。医者ってそう思うものなんだな、というところがいくつもあり感心します。ニーチェについてもよく理解していて、ニーチェが好きな人も感心しながら読めると思います。ニーチェについて知らない人には本書はあまりおすすめできないので、「まんがで読破」シリーズでも読んでおいて少しは知識をつけておくと面白く読めると思います。
残念な点は、誤字脱字が目立ちます。翻訳者が悪いのかわかりませんが、もしかして、出版社は原稿を受け取って誰も目を通していないんでしょうか。そんなわけないですよね。また、御者フィッシュマン、ブロイアーの義弟マックスという架空の人物が登場しますが、名前がウィーン風でないといいますか、架空だからいいんですけども、もう少しいい名前にしてあげると良かったなと勝手に思いました。
以上