著者 斎藤幸平
発行 集英社
ページ数 375
分類 思想
※キーワードはボールドで強調します。
社会主義思想家マルクスが死んだあと、盟友エンゲルスがマルクスの遺したメモなどをまとめて資本論の後半としたのですが、マルクスの遺稿等は膨大で、まだ研究の余地がありました。それによると、晩年のマルクスが環境配慮と脱成長を志向していたことがわかってきました。本書は日本でのマルクス研究第一人者、斎藤幸平氏による資本論を参考にした革命のすすめです。
環境配慮のSDGsなど無意味です。地球環境の破壊は、もう惑星の限界(プラネタリ・バウンダリ)、引き返せない地点(ポイント・オブ・ノー・リターン)に近づいています。今の資本主義によるマイナス点が大きすぎ、SDGsのプラス点が追い付かないのです。
資本主義は、発展途上国(グローバル・サウス)に環境破壊を押し付け、成果物を搾取してきました。環境破壊を外部化し、不可視化してきたのです。環境破壊が自国になければ、ないのと同じという考えです。
資本主義は、希少性を求めます。例えば、ブランドもののバッグは、皆が持っていたら価値はありません。ほとんどの人が持っていないから、価値があります。田畑で獲れた作物は、豊作すぎると価値が下がるため廃棄しなければなりません。本来、豊作はうれしいことのはずです。
このように、行き過ぎた資本主義をやめなければなりません。そのため、脱成長コミュニズムを提案します。原始時代に戻ろうということではありません。例えば、今現在電気が通っていなかったりトイレがないような地域に電気を通しトイレを作ること自体は否定していません。
我々が目指すべき姿は、生活に必要なものを自分達で確保し、民主的に配分するコミュニティです。そのコミュニティでは、自治と相互扶助が必要です。作物を作りすぎても、資本家のために廃棄しなくていいのです。
無政府主義ではうまくいきません。過激主義が蔓延し、社会が野蛮状態になりかねません。
自動車産業の集積地として知られていましたが、産業の衰退により失業者が急増。市は財政破綻しました。街は廃墟となり、治安が悪化しました。しかし、残った住民は、地価が下がったため有機農業を始めました。これにより、住民同士の絆が復活。野菜の栽培と地域の市場での販売、地元レストランへの食材提供といったことで住民の健康状態も改善しました。
2020年に「気候非常事態宣言」を宣言。240項目にも及ぶマニフェストを作成、2050年までに二酸化炭素排出ゼロとする詳細な計画を発表しました。行政が勝手に作ったのではなく、市民も参画しています。例として、飛行機の近距離路線の廃止、市街地での自動車の速度制限などがあります。自動車の速度制限は、なんと時速30kmです。これだけではなく、「恐れ知らずの都市」(フィアレス・シティ)のネットワークを作りました。バルセロナの行動に賛同した、アムステルダム、パリ、グルノーブルなどがこのネットワークに参加しています。
本書を読んで、私はちょうど共産党大会のあった中国が気になりました。習主席はこれまでも「マルクス主義は我々が世界を認識し、世界を改造するための強大な思想的武器だ」などと述べています。現在の中国共産党指導部が、彼らの理解するマルクス主義を最新の研究からアップデートしているかはわかりません。しかし、習主席の政策を見ていると「脱成長」を志向しているようには見えます。アリババグループやテンセントなど、力をつけたIT企業を抑え込み、2022年の経済成長率は3.2%程度です。「小康社会」は実現できているようですが、ゼロコロナ政策を見る限り、住民同士の絆を養うどころか野蛮状態にもなりかねない危うさを感じます。
こっちも面白かったです。脱成長コミュニズムが大事にすべき公共資源(コモン)に関するより広範な知識が得られます。
以上