
NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は2022年10月30日に第41回「義盛、お前に罪はない」で和田合戦を描きました。畠山重忠の乱で滅ぼされた畠山重忠は冤罪でした。和田義盛も「罪はない」のサブタイトルにより、冤罪で謀反に追い込まれたと想像させます。
吾妻鏡も認める冤罪の重忠に比べると義盛は将軍御所に攻め込んでおり、冤罪とすることに異論がある向きもあるでしょう。「お前に罪はない」をサブタイトルとすることは巧みです。しかも、北条義時は源実朝との約束を反故にし、だまし討ちします。「義時、お前に正義はない」と言いたくなるほどブラックでした。
第40回「罠と罠」で衝突は回避され、義時も義盛討伐を諦めたように見えました。その後に時房は「和田殿が好きなくせに」と指摘しました。これによって義時も本当は義盛を殺したくないという人間的な心を取り戻したように見えました。殺したくないのに和田合戦が始まってしまい、殺さざるを得なくなるという義時を曇らせる鬼脚本になるかと予想しました。ところが、義時はブラックで一貫し、実朝を曇らせる側に回りました。
義時と実朝の関係は上総介広常を誅殺した時の源頼朝と義時の関係に重なります。義盛が上総介を希望したことは上総広常を想起させます。また、大江広元は広常も義盛も警戒していました。
相違点は実朝の態度です。頼朝に曇らされる一方であった義時と異なり、実朝は後鳥羽上皇を頼ると宣言します。ドラマで紹介された実朝の和歌「山は裂け 海は浅せなむ 世なりとも 君にふた心 わがあらめやも」は君(後鳥羽上皇)への忠誠を詠っています。このため、戦前には愛国百人一首に選ばれるなど皇国史観・軍国主義に利用されました。
一方で実朝には「君が代も 我が代も尽きじ 石川や 瀬見の小川の 絶えじとおもへば」との和歌もあります。これは君が代(後鳥羽上皇の治世)も我が代(自分の治世)も終わることがないと歌っています。
上皇と自分を一体化させることで自分の治世を強化させようとしています。実朝は皇室に一方的に忠誠心をささげるような忠君愛国の勤皇家ではなく、自分の権力のために朝廷を利用する強かな為政者でした。御恩と奉公の世界の人物です。
朝廷依存は、朝廷から距離を置いた頼朝とは異なるように見えます。確かに頼朝は反乱軍として出発し、その中で確立した鎌倉殿という独自の権威が力の源泉でした。一方で守護・地頭の設置や征夷大将軍任官など朝廷の権威も利用しました。自分の領土を増やすことばかりを考える御家人達の上に君臨するためには朝廷は意味があります。実朝の路線は頼朝の路線を継承するものです。
実朝が頼朝を超えた点は、朝廷の官職を純粋に権威として利用したことです。官職は本来、朝廷の仕事を果たすための役割です。頼朝は官職の正しい意識を持っていました。頼朝は建久元年(1190年)に上洛し、権大納言と右近衛大将に任命されましたが、すぐに辞任しました。この官職に就いていると朝廷で仕事をしなければならず、鎌倉に戻れないためです。
頼朝は御家人が勝手に朝廷から官位をもらうことを禁止しました。それは御家人が朝廷と独自のつながりを持つことを禁止するという政治的目的が主ですが、朝廷の仕事をすると御家人としての仕事ができなくなるという副業禁止的な意味合いもありました。
これに対して実朝は鎌倉に居ながら最終的には右大臣になります。実朝は朝廷の権威を有難がるイメージがありますが、むしろ頼朝以上にドライに考えていました。
実朝が朝廷の権威を利用して政治を主導する意思を持ったとすると、次の第42回「夢のゆくえ」の大船建造・渡宋計画が気になります。伝統的には和田合戦で信頼していた義盛が滅ぼされ、厭世的になって国外脱出を企てたとなります。
しかし、将軍親裁を進める立場と国外脱出は矛盾します。北条氏に対抗できる将軍派閥を結成する目的があったとする説があります。「巨船を建造しての渡宋というとてつもない計画をぶち上げることで、たとえ執権に睨まれても将軍に従う、という御家人を選別しようとしたとも考えられる」(坂井孝一『承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱』中公新書、2018年、91頁)
また、実朝自身の渡宋は『吾妻鏡』の曲筆であり、平清盛のように貿易を考えていたとする見解もあります。
実朝が朝廷の権威を利用した政治に意欲を持っていたとすると将軍後継者問題も新たな見方が出ます。北条政子は上洛して親王を後継将軍にする交渉を行っています。政子は後鳥羽上皇の乳母の藤原兼子と交渉しており、女性同士が交渉して政治を動かす「女人入眼ノ日本国イヨイヨマコト也ケリト云ベキニヤ」と『愚管抄』に評価されました。
これは実朝そっちのけで政子が動いたように捉えられていました。しかし、実朝に朝廷の権威を利用した政治構想があるならば、実朝の意を受けて政子が動いたと描かれるかもしれません。
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