ブロックチェーンの活用範囲は、経済的な活動や文化的なコンテンツにかかわる部分だけにはとどまりません。政治的な分野での活用も世界各国で模索されていますね。
ALISのなかでもdragon-taroさんが記事にされていたように、エストニアに代表されるように国家制度・社会制度のなかにブロックチェーン技術を組み込んでいこうという動きがすでに実現されてきています。(記事はこちら「国家2.0〜中央集権政府から自立分散型のビットネーションへ〜」)
台湾でもそのような動きが実現していくのか?そうした課題について、僕がこれまでに書いた記事でも何度か登場した立法委員の許毓仁さんが興味深い意見を公表されたようですので、少し書き留めておきたいと思います。
(文中の日本語訳はざっくりとした粗訳ですので、参考までに止めていただければ幸いです。また、台湾の国際的な状況などについても少し言及していますので、文章がいつも以上に長くなっています。宜しくお願い致します(^^;)
・「デジタル外交」で台湾の「外交困境」を克服する!?
・台湾の「外交困境」って? ←やや長め
・台湾と国交があるマーシャル諸島が前例に!?
・外交にブロックチェーンを組み込む4つの方法
・ブロックチェーンの可能性のひとつとして…
台湾の立法委員(日本の国会議員に相当)である許毓仁さんが昨日、2018年5月26日に自らのフェイスブックに、「區塊鏈科技的時代給台灣外交困境一個新思維(ブロックチェーンの時代が台湾の外交的困難に新たな思想を与える)」と題した文章を掲載したことが、ニュースサイト「新頭殼newtalk」で記事として配信されています。
許毓仁さんは次世代の立法委員として、特に台湾におけるブロックチェーンとフィンテックに関する法整備に尽力されている方です。僕のこれまで記事のなかでも、台湾のマネーロンダリング規制に関する記事や、ブロックチェーンに関する超党派組織の結成に関する記事で言及しました。
特に後者の記事で、許毓仁さんについて少し詳しく書きましたので、ご参照いただければ幸いです。
許毓仁さんの記事の内容に入る前に、予備知識として、台湾が置かれている外交上の「困境(日本語で「苦境」)」について、簡単にまとめておきたいと思います。
台湾は独立した政治体制を持つ地域として世界各国で認知されていますが、国際的に「国家」としては位置づけられていません。
たとえば、よく知られているように、オリンピックなどの国際大会で台湾の選手団は「中華台北(ChineseTaipei)」と称して参加しています。
これは、台湾が国際社会において、単体として認知されている(だからこそ、オリンピックという国際競技に単独で参加できる)けれども、「国家」としては認められていない(だから、「台湾」や「中華民国」と称して参加できない)からこそ生じていることです。
「台湾」名称での参加を求める動きもありますが、今のところ承認される見通しは持てない状況です。
台湾が置かれているこうした国際的な状況が、台湾の外交の場における「困境」を生み出しています。
中国と台湾はそれぞれ、「中華人民共和国」と「中華民国」という別の政体を持ちながら、「ひとつの中国」という建前・面子・政治的認識があり、かつ、「中華民国」は「国家」として承認されていないため、外交相手は台湾と中国両方と国交を結ぶことが認められていません。
もう少し正確に言えば、台湾は「実質外交」を目指し「ひとつの中国」に固執する状況からは脱していますが、なおどちらを選択するかということが外交上の慣例(かなり強制力のある慣例)となっている状況があります。
(本当はもっと歴史的な状況を踏まえて説明するべきですが、そうするとなかなか本題に入れないので、とりあえずここまででご容赦ください(^^;)
したがって、もともと台湾と国交があった国が中国と国交を開いた場合、台湾とは断交するということになります。そのため、2018年5月現在、台湾が外交関係を持つ国はわずか18か国、その多くが中南米やオセアニア地域の国々となっています。
特に、ここ一か月のうちにドミニカ共和国とブルキナファソが中国と国交を結び、台湾と断交しました。2016年に発足した蔡英文政権後に、これら2つの国を含めて台湾と断交した国は4か国となり、台湾の外交上の「困境」が鮮明になってきています。
こうした状況をどのように打破していくかということは、台湾政治上の大きな課題となっていますが、許毓仁さんの意見提起は、まさにこうした現状を踏まえたものになっています。
許毓仁さんは台湾のこうした「外交的困境」を克服するために、ブロックチェーン・仮想通貨を外交システムに組み込む検討を始めるべきではないかと提起しています。
そのときに、許毓仁さんが前例として挙げているのが、台湾と国交があるマーシャル諸島(馬紹爾群島)の取り組みです。許毓仁さんのフェイスブックページには意見提起の文章とともに、「財経新報」が報じたマーシャル諸島における仮想通貨導入に関する記事のリンクが貼られています。
マーシャル諸島における仮想通貨導入については、日本語で読めるものとしてたとえばGigazineのこちらの記事、英語ではロイターが報じたこちらの記事などで詳細を知ることができます。
これらの記事によれば、マーシャル諸島政府は2018年3月に自国通貨としての「Sovereign(SOV)」をICO(首次代幣發行)方式、つまり仮想通貨として発行すると発表しました。
マーシャル諸島は歴史的な背景から、これまでアメリカドルを公的な通貨として流通させてきましたが、このSOVを自国通貨として初めて発行し、将来的には、アメリカドルとSOVの両方を公的な通貨として流通させていく予定のようです。
許毓仁さんは、台湾と国交があるマーシャル諸島がこのような形でブロックチェーンを採用していく事例が、台湾の「外交的困境」を克服するためのヒントになると指摘しています。
以上のような状況を踏まえて、許毓仁さんは以下のとおり、ブロックチェーンを外交システムに組み込む4つの方法を提案しています。
1.將台灣自己定義為加密貨幣公國(Crypto Nation) 發行國家級的加密貨幣。(台湾は自らを「仮想通貨国家」と位置づけ、国家レベルの仮想通貨を発行する)
2.在區塊鏈上建立全球性的數位身份(Taiwan Global ID) 吸引科技移民。讓台灣在國際上直接被全世界認可,吸引全球科技人才直接進駐台灣,為台灣帶來下一波的經濟奇蹟。(ブロックチェーン上にグローバルなデジタルIDを発行し、技術移民を誘い込む。台湾を国際的に全世界から直接認めてもらい、グローバルなテクノクラートが直接台湾に来られるように誘い込み、台湾に次の経済的奇跡をもたらす)
3.發行ICO國債取代傳統的金援外交,一舉解決台灣困擾已久的外援黑洞。(ICO国債を発行して伝統的な金銭外交に取って代わり、台湾が長く悩まされている外交的ブラックホール(エアポケット?)を一挙に解決する)
4.在區塊鏈上建構金融、資安儲存、醫療保健服務的交換系統,讓台灣成為全球資料資產中心。(ブロックチェーン上に金融・資産・医療保険サービスの交換システムを構築し、台湾をグローバルな資料資産センターとする)
こうした提案を「數位外交(DigitalDiplomacy)」とも表現し、ブロックチェーンの導入が台湾の「外交的困境」を解決するひとつの方法ではないかと提起して、文章を締めくくっています。
ブロックチェーンがP2P(點對點)で非中央集権化(去中心化)・分散化(分散式)を実現するものであるとすれば、台湾が国際関係上、世界各国とストレートに結びつくための手段として、外交上にブロックチェーンを活用していくというのは、理念上からもありうる考え方ではないかと感じます。
もちろん、台湾の外交上の「困境」は単純に国際社会との関係性というだけではなく、中国(中華人民共和国)という強力な「Peer」が存在しているので、許毓仁さんの提案をそのまま実現していくことは、現状では困難だろうとは思います。
それでも、台湾がブロックチェーン・仮想通貨に積極的にかかわっていくという姿勢を政治的・経済的・文化的に示すことができるとすれば、それは台湾に対する多くの人々の視線や考え方に影響を与えていくことになるだろうと思います。
台湾におけるブロックチェーン・仮想通貨をめぐる動きがどのように展開していくか、僕も自分なりにコツコツ情報を集め、地道に勉強していきながら、じっくり観察していきたいと思います!
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台湾の仮想通貨・ブロックチェーンの法令関係について、文中に挙げた記事も含めて、以下のような記事も書いています。
台湾でブロックチェーン技術を推進する超党派組織と業界団体が発足しましたよ!