台湾のなかで、台北は圧倒的な「都会」です。僕の感覚としては、日本のなかでの東京の位置づけよりも圧倒的に「異質」な街だと感じます。政治・経済・文化の中心として、あらゆる情報やあらゆる人が集まっています。
もちろん、ブロックチェーン・仮想通貨に関する情報も台北発信のものが多くなりますし、台北で展開されているさまざまな動きが必然的に目に付きます。
それだけに、台北だけを見て台湾のことを知った気になってしまいがちですが、台湾の深い部分に触れようと思えば台北から外に目を向ける必要があります。
なかでも、台湾第二の都市である高雄は「ローカル」色豊かな地方都市として、台北とはまた違う空気に満ち溢れています。天候も曇りがちな台北に比べて、年中ピーカンですからね(台北は亜熱帯、高雄は熱帯地域なんですよね)
今回は高雄で開催されたブロックチェーン関連の会議の情報が興味深かったので、その情報を軸に、高雄でのブロックチェーンをめぐる動きについて少し書き留めておきたいと思います。
・「中華科技金融学会」の南部分会が発足!
・国立高雄科技大学はブロックチェーン開発に積極的!
・高雄も「スマートシティ」を目指す!?
・新しい技術は地方をこそ変える…かも!?
台湾の報道機関「中央通訊社(中央社)」が2018年6月13日に報じた記事によると、同日、台湾のフィンテック(金融科技)に関する産官学協働組織である「中華科技金融學會」南部分会(南部支部)の結成大会が国立高雄科技大学で開催されたそうです。
記事によれば、「中華科技金融學會」は2017年11月に「創造下一世代競爭力(ネクストジェネレーションの競争力を創り出す)」という目的のもとに結成された産官学の協働組織で、台湾のフィンテックの健全な発展をサポートしていくと説明されています。
今回の南部部会の結成大会には、学会理事長の王金平さん(前立法院長、国民党のベテラン議員)をはじめ、民進党立法委員の陳其邁さんなどの政治家、分会が設置された国立高雄科技大学の学長である楊慶煜さんをはじめとする大学関係者、金融監督管理委員会(金管會)の蔡福隆さんや經濟部(経済部)の呉明機さんといった行政官など、「政」「官」「学」のキーパーソンが集っていたみたいですね。
また、今回結成された南部分会は、大会の会場となった国立高雄科技大学(高科大)の財務金融学院(学院は「学部」に相当)が運営の中心を担うとのことで、高科大が重要な役割を担っているようです。
学会理事長の王金平さんのスピーチでも、「高科大在培育學生區塊鏈的科技創新創業方面的努力與成就是大家有目共睹(高雄科技大学が学生のブロックチェーン技術のスタートアップ創業支援に尽力し、成果を出していることは、みなの注目するところである)」と言及したように、高科大もブロックチェーンに関する教育と人材養成を積極的に進めている教育機関のひとつのようですね。
同じく、南部分会結成大会の様子を伝えた「今日新聞NowNews」の記事によれば、高科大は昨年、「區塊鏈數位文憑系統(ブロックチェーンデジタルディプロマシステム)」を開発し、卒業証書や各種証明書などのデジタルドキュメントをブロックチェーンをベースとするプラットフォームに保存しているとのことです。
ブロックチェーンを実際に活用している大学としては、高雄と同じ南部にある、台南の国立成功大学もそのひとつですし…台北に限らず、台湾各地の大学で研究・実践が進められていることがわかりますね。(国立成功大学の取り組みについては、こちらの記事にまとめました)
また、「今日新聞」の記事によれば、今回の結成大会では、中華科技金融學會と高科大に加えて、国立台湾大学や東呉大学、企業や農業組合(農會)と共同で、「台湾自主區塊鏈底層技術的生活應用平台(台湾自主ブロックチェーン基盤技術のライフサービスプラットフォーム)」を作っていくことも発表されたそうです。
このプラットフォームから、交通や観光、あるいは行政サービスにかかわるブロックチェーンサービスを生み出していくことが目指されているとのことで、高科大が積極的に台湾におけるブロックチェーン発展の一翼を担っていこうとしていることが伝わってきますね!
「今日新聞」の記事は、結成大会に参加した民進党の立法委員である陳其邁さんのコメントを中心に報じています。
陳其邁さんはブロックチェーンに関する法制度の整備に積極的にかかわっている立法委員のひとりです。僕が書いた記事のなかでも、たとえばブロックチェーンに関する公聴会のメンバーの一員であるなど、意欲的な活動を展開している印象です。
南部分会の結成大会で、陳其邁さんは以下のようなビジョンを語ったそうです。
未來的高雄應該更積極扮演創新科技的推手,讓高雄銀行轉型為青創銀行,建置加速器、孵化器等,扶植新創事業的發展,並提供沙盒或是FinTech相關的試驗場域,透過鼓勵像是區塊鏈技術這樣的顛覆式創新,讓高雄往前走。
(未来の高雄は技術の創出を推進していく役割を積極的に果たしていくべきで、高雄銀行を「青創銀行」に転換し、アクセラレーター、インキュベーターなどを設置し、スタートアップ事業の発展を支え、さらにサンドボックスやフィンテックに関する試験場を提供し、ブロックチェーンのような大きな転換を伴うイノベーションを盛り上げていくことを通じて、高雄を前に進めていく)
「青創銀行」は「青年創業銀行」の略称で、若い人々の起業支援に注力する銀行のことを意味します。陳其邁さんが新たな技術を積極的に支援し、発展させていこうと考えていることがわかりますね。
しかも、こうしたビジョンは、単なる立法委員ひとりの意見にはとどまりません。たとえば、陳其邁さんのFacebookページを見ると、「智慧城市 經濟市長(スマートシティ 経済市長)」というスローガンが目に入ってきます。
陳其邁さんは過去に、高雄市の市長代理を務めた経歴を持つ人物ですが、実は2018年末に控えている高雄市長選挙に、民進党の公認候補として立候補することが決まっています!
このスローガンは、高雄市長選挙に向けたスローガンなんですね。
実際に、中央社が2018年6月13日に伝えた記事には、上に挙げたコメントを取り上げて、陳其邁さんが「智慧城市」を訴えていくことを表明したと書かれています。
台湾南部は伝統的に民進党が強い地域ですから、陳其邁さんは年末の市長選の最有力候補です。「スマートシティ」は台北市も方針を打ち出していますが、もしかしたら高雄市のほうが早く展開していくかもしれませんね!
今回、いろいろな記事を見てみて、高雄での動きも思いのほか活発だなあということを感じました。
台北からはバリエーション豊かな情報が日々生み出されていきますから、つい台北での動きに目を奪われてしまいますが、むしろ台北以外での動きのほうが早いかもしれないなと思います。
そういえば、ブロックチェーンを用いたデジタルIDのこころみも台湾の離島である蘭嶼島で試験運用されています(こちらの記事に書きました)。
都市の規模やインフラ整備の状況などから考えても、新しい技術を導入していくためにはすでにいろいろなものが整備されている大都会よりも、地方都市のほうがスムーズなのかもしれません。
今後もこうした地方での動きも視野に入れながら、コツコツと情報を追いかけていきたいと思います!
kazの記事一覧はこちらです。よろしくおねがいします。(下のアイコンからもご覧いただけます)https://alis.to/users/kaz
Twitterはじめました!@kazALIS2