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コンクリートが好き

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  • 2020/10/18 15:30

 蔦に覆われた建物を愛でるfacebookグループに入っている。そこの投稿を見ていたら、新宿の二十騎町にある某タレントの自宅が出てきた。蔦はないが丸みを帯びた打放しコンクリートで作られている。この「打放しコンクリート」が、昔からなんだか好きなのだが、なんで好きなのだろうか。

 多分理由のひとつは小さい頃から親しんでいたからである。私の地元弘前市にも打放しコンクリート作りの施設が沢山あり、役所、病院、博物館、劇場、斎場と折に触れ出入りしてきた。特に市民会館が私は好きで、外壁に付いた木板の型枠の木目も、ホールへ続く緩やかで長いスロープも、屋内への光の入り方もとても気に入っていた。市内のそれらの建物を設計したのは前川國男事務所だという。彼が関わった建物は全国にあり、例えば動物園に行こうと駅から上野公園に入ると見えてくる、東京文化会館もそうである。上京して見た時は懐かしくてびっくりした。また上野の国立西洋美術館はル・コルビュジエが設計した世界遺産で、無限に増殖できる建物として作られた一つである。この実施設計をした弟子の1人が、前川國男だった。ちなみに後年増設された部分がコンセプトから外れている(都合で裏側に増設された)というのはとても残念な話である。・弘前市民会館

 太平洋戦争が終わり、65歳以降のコルビュジエが作った建物は「ブルータリズム」の表現と言われている。ブルータリズムとは、コルビュジエがベトン・ブリュット(仏語で生のコンクリート)と呼ぶコンクリートを使った荒い仕上を特徴とする建物様式である。コルビュジエを紹介するサイトにひっかかる文言があった。「一発、コンクリートを打ったら取り返しがつかない/その彫塑的な要素が、コンクリート打放し建築の魅力でもある*1」取り返しのつかなさが、その思い切りが好きなのだろうか。確かに三田の蟻鱒鳶ルの魅力はそういうところにもあると思う。また「目的に合わせて/建物がどう機能するかを重視する「内側から外へ」というブルータリズムのコンセプト*2」の為だろうか。だが言われてみればそれはわかる気がする程度で、私が打放しコンクリートが好きな理由は別にあった。ただ、ブルータリズムやコルビュジエに関連して紹介されていた打ち放しコンクリートの建物たちは、どれも心惹かれるものがある。ロンドンのバービカンエステートは是非散歩したいし、ブラジルのオスカー・ニーマイヤーの建物の巨大さや、地震がある土地ではあり得ない構造物に度肝を抜かれたい*3。コルビュジエが晩年に立てた礼拝堂の近くには巡礼者用の宿泊所もあり、その屋根は芝で緑化されていて可愛い。礼拝堂もイケている。*4

*1・誰でもわかるコルビュジエ「後編 : ブルータリズムの爆発(1934-2006)」*2・今も続く「ブルータリズム建築」の影響とは?*3・ブラジル建築紀行 ブラジリア編その1*4・コルビュジエのロンシャンの礼拝堂

 ここからは私の妄想に関する話になる。コンクリートは言うまでもなく人工物だが、しっかり作れば100年以上保つという。人より長持ちするし、硬いし大きい。私は時々、私がいない世界を想像する。切なさと同時に安心するからである。私のいない世界を見ている私が拠り所にするのは生物ではなく、場所とそこにある構造物である。そこにはよくコンクリートの建物がある。文明がなくなった後の緑の世界より、死んで数十年程度の世界の方が想像し易いのは、日常的に見ているからだろう。都市はコンクリートで溢れている。建造物は建てた者の自己投影の結果とも言える。だが私が建物を見る時、建てた人のことは一向に気にしていないのであった。今目の前にある建物の、目に見える部分と関わっている。

 私の主観では、建物の主体は建物自体にある。設計者や施主の思惑と、現場の作業員の手の動きの結果、何もない空間に立てられた壁がある。壁は内側/外側を分ける機能を果たしている。それは施行した人の思惑通りだったとしても、壁はそこに建てられた瞬間からその場の自然との関係を始める。例え全体の一部としてでも存在し、その場ならではの他者と関係を持つものには、命の有無は関係なく主体がある。植物や太陽光等との関係で外見は変化していく。存在しているがゆえに生じる個性に私は親しみを覚える。公共施設の打放しコンクリートは、巨大ゆえに省みられない部分が沢山あり、省みられないままにその場で内外と関係を持って変化していく様子に愛着を持つのである。妻に話すと、付喪神や八百万の神を連想する話だと言われた。

 私が蔦の這う家に興味を持ったのは、元々は空き家に住めないかなと思ったのが最初だが、時にはコンクリートで作られた省みられない壁と蔦とのマッチングに萌えたということもあるだろう。また私は毎日公園や解放された校庭の壁に球を投げにいく習慣がある。プロフィールにある壁に球を投げるというのは、比喩ではないのだった。子供の頃から実家の塀に球を投げていたこともあり、コンクリート壁への愛着は元々強かったのかもしれない。建てられた時に偶然できた傾斜や空洞や、建てられた後の自然の浸食や事故で着いた痕跡などを、その壁の個性として私は愛してきたのだと思う。巨大な打放しコンクリートの建造物が好きなのは、パーツとして省みられない偶然の個性を持った壁が無数にあるからなのであった。部分に集中すれば省みられない個性を見出すことができる。だからきっと私は退屈しないのである。

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